幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

言葉は無くとも、ただ側に居るだけで言葉以上のやり取りができることがある

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陽射しが和らぎ、ちょっぴり肌寒さも感じる秋晴れのある日、

気分転換に散歩へでかけた。

目的地を決めずに、風の吹くまま気の向くままに

何処からともなく流れてくる風の中に秋の匂いを感じながらてくてく歩く。

 

天を仰ぐとすっかり高くなった空が広がり、

つい最近まで青々としていた木々達は

赤や黄色に色づき始めている。

目の前を横切ったトンボは羽を小刻みに震わせ

上下に揺れながら器用に風に乗っていた。

 

あるお宅のお庭から道路へ顔を出している、しなった枝には

とてもとても深く濃い紫色の小さな実がたわわになっていた。

この季節に見かける紫式部という植物だ。

平安時代の女性作家と名前が同じと言う事もあり、

この植物を見ると彼女の事を思いだす。

彼女もこの植物を目にしていたのだろうか。

彼女の作品にも、どこかに登場しているのだろうか。

私の思考もある意味風の吹くまま気の向くままに流れる。

 

そんなこんなで家を出てものの数分で、

次から次へと季節の移り変わりを感じさせられる事となった。

このまちは、賑やかな通りを抜けた所に大きな神社がある。

今日はそこの猫に会いに行く事に決めた。

 

街中を見渡すような位置に在るその神社は

大きな森に囲まれている。

たくさんの木々に囲まれた中、少々急な石段を登る。

耳に届いていた街中の騒音が次第に薄れ

代わりに鳥や虫の鳴き声が届く。

風が吹けば木々の葉がさわさわと音をたてる。

空気も少しひんやりとしていて、自然の香りが鼻を擽る。

 

冷たく澄んだ空気を吸い込みながら登っていくと、

猫が一匹、また一匹と姿を見せる。

まるで訪れた人を境内まで道案内をしてくれているかのように

時折、立ち止まっては後ろを振り返り進んでいく。

 

参拝場所に着く頃にはその猫たちは何処かへ姿を消している。

お詣りをすませると

何処からともなくまた別の猫が現れる。

クリームがかったい毛にミルクティーのような優しい茶色が混ざった

柔らかな印象の人懐っこい猫だ。

 

着かず離れずの距離を保ちながら

互いにちらちらとアイコンタクトを交わす事数分。

私の「撫でたい」という気持ちを察してくれたのか

側へ来てその身を差し出す猫。

神様の前でしばらくその猫とじゃれていたのだが、

頃合いを見て猫に別れを告げ、その場を後にした。

 

言葉は通じないけれど、心は通じた気がした。

その小さな触れ合いにとても癒され元気をわけてもらった。

来た甲斐があった。

帰り際に会った宮司さんにそう漏らすと、

その猫は人が訪れる時間帯は常に参拝場所付近にいて

お参りする人を見守っているのだとか。

そして、猫よりも人間好きに見えるのだという。

 

言葉に頼ってしまう事が多いけれど

言葉が完全であるという訳は無いという事を

やんわりと、改めて感じたような時間だった。

時に言葉は無くとも側に居るだけで言葉以上のやり取りができるものだ。

きっと人との関わりもそう。

 

また来よう。

都会の喧騒から離れて、

あの猫たちに会いに。

 

画像出典:https://jp.pinterest.com/