その日の私は、時折流れる秋らしい風を全身に感じつつ、
ビルと街路樹から伸びる影を縫うようにして目的地を目指していた。
風も日差しの色も道行く人のファッションも秋めいているというのに、
じわっと汗が滲みそうになる気温には、まだ薄っすらと夏の香りが残っている。
「(あれ、今のって……)」
私は目の端で捉えたそれを確かめるべく、
くるりと体ごと後ろを向き直すと来た道を5、6歩ほど戻った。
街路樹を下から見上げると可愛らしいドングリの実を見つけた。
「(やっぱり、ドングリだ)」
まだ青みがかっていたけれど、
スリムな身にぷっくりと丸みを帯びた可愛らしい帽子を被ったドングリ。
ドングリの実は知っているけれど、
ドングリの木や葉っぱのことは何も知らないままだったのだ。
まさか、街中でドングリの実に会えるなんて思っていなかった私は、
ただただ、これがドングリの木か、葉っぱか、などと思いながら、その木を眺めた。
すると、木の至る所にドングリの実がなっていることに気が付いて
新しい扉が開いたような感覚になった。
そんな私に、「何か居るんですか?」と腕を組んだ仲の良さそうな老夫婦が声をかけてきた。
「ドングリの実を見つけて」と答えると老夫婦もドングリの木を下から見上げた。
「あら、ほんとね。もう少ししたら収穫してドングリのコーヒーでも淹れたら美味しそうね。」
とご婦人が言ったのです。
「え?ドングリのコーヒーがあるんですか?」
後でスマートフォンで調べればいいことは分かっているのだけれど、
抑えきれずにご婦人に尋ねてみた。
細かく切ったドングリをフライパンに入れて、弱火でじっくり、しっかりと煎って、
粗熱を取ったものをドリップすると、
コーヒーとはまた違ったまろやかな香ばしさがあるドングリコーヒーができるのだそう。
ご婦人はそこに、ハチミツとミルクを足すのが好きなのだと素敵な笑顔で教えてくださった。
身振り手振りを使って丁寧に教えてくださるその可愛らしい姿を
横で黙って眺めているご主人の優しい笑顔もまた素敵で印象的だった。
ドングリを使ったパンやクッキー、お酒がは知っていたのだけれど
コーヒーは初耳だった私は素敵なご夫婦と分かれた後、
スマートフォンでドングリについて調べてみた。
ドングリは、縄文時代にはすでに食されており、
現代の私たちにとっても非常に栄養価の高い食材のようです。
ただ、ドングリであればどれでも美味しく食べられるといわけでは無く、
生で美味しく食べられるものもあれば、
渋みや灰汁の強いもの、お腹を壊してしまうものなどもあるのだそう。
私はコーヒーは苦手なのであまり口にしないのですが、
ドングリコーヒーに出会えた際には一度、味わってみたいと思っています。
こうして、その日の私は、小さな秋が運んできてくれた
小さくて素敵な出会いに感謝しつつ1日をスタートさせました。
今日もまたひとつ、あなたにとっての小さな秋をみつけてみてはいかがでしょうか?
小さな秋がみつかりますように☆彡