珍しくスズメのさえずりで目が覚めた。
鳴くのは自由だけれども私が起きる時間にしては少し早すぎるのではないだろうか。
そのような事を思いながら、もう一度ベッドの奥へと潜り込んだ。
どこで鳴いているのやら、一向に鳴き止む気配のないスズメたちの声に
子どもの頃に今は亡き祖母から教えてもらったことを思い出した。
天気のことわざのようなものだったと思うのだけれども、
“スズメが朝からさえずるのは晴れ”というものだ。
スズメは日の出の少し前に目を覚まし、さえずりを始める性質があるという。
雲ひとつない晴れた日は太陽が辺りを一斉に照らし始めるため、
あちらでも、こちらでも日の出を喜んでいるがのごとく、
スズメたちが一斉にさえずりを始めるのだそう。
しかし、太陽の光が行き渡らない曇りの日は日の出の判断が難しいようで、
日の出の時刻を過ぎても、彼らは、さえずりを始めないこともあるらしいのだ。
はじめて、この話を聞いたときには、「(スズメって結構、なまけ者なんだ)」と思った。
そして、チュンチュンと鳴きながら獲物を探している姿を目にしては、
「(この、なまけものっ)」と愛情を込めた視線を投げかけていた記憶がある。
それから着々と大人と呼ばれる年齢になり、
スズメの鳴き声と天気を絡めることも無くなっていたのだけれど、どうして急に。
そのような事を思いつつ、私の、いつも通りの1日は始まった。
慌ただしくも無事にその日を終えようという時間、
何気なく向けた視線の先にあったカレンダーを見てハッとした。
その日は祖母の月命日だったのだ。
「そんなの偶然じゃないか」と言ってしまえばそれまでのことなのだけれども、
その時の私は、遠い遠い、幼き頃の記憶を介して、
形も声もない、だけれども温かい言葉のようなものを祖母と交わし合ったような気がした。
そのことに気が付いてほどなく、時計の針は、新たな1日を刻み始めた。
祖母は、あちらの世界で楽しくやっているだろうか。
私は、こちらで楽しくやっている。色々とあるけれど、それなりに頑張りながら。
そのようなことを心の中で呟きながら、
早朝のスズメのさえずりも、たまにはいいものだと思った。