書道絡みの資料を整理していると古い楽譜が数枚挟まっていた。
懐かしすぎて、もういつの頃のものかさえも分からない古びたそれを、一枚ずつ表裏を確認した。
色鉛筆で色々と書き込んであったので、当時の私が何を大切なことだと感じて、何を書き込んだのか。
何となく興味がわき、楽譜を手にリビングへ移動した。
冷蔵庫から、夏の暑さに誘われて、あまり得意ではないくせに買ったまま飲まずに冷やされ続けていた炭酸飲料とグラスを取り出した。
冷えたグラスに透明の炭酸飲料を注ぐと、小さな気泡がプチプチと可愛らしい音をさせながら弾けて消えた。
ひと口、ふた口と口に含み、やはり炭酸飲料は得意ではないと確認しつつ、楽譜の書き込みに視線を向けると、アルファベットや数字が書き込まれていた。
そして、思い出したのだ。
暗号探しをしていたことを。
ドイツの作曲家、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(※以下、バッハ)は自分の名前を暗号化して楽譜の中に隠していたと言われている。
ただしこれは、バッハ自身が公言したことではないため、意図的だったのか偶然だったのか、この辺りの真実は分かってはいないけれど、音楽の父と呼ばれている彼である。
これくらいのエピソードを求め、期待する人が居ても不思議ではないようにも思う。
彼の楽譜の中に隠されていた暗号はどのようなものだったのか。
音楽に使用される「音」は、イタリア語の「ドレミファソラシド」以外にも、ドイツ語であれば「CDEFGAHC」、日本語であれば「ハニホヘトイロハ」と書き記すことができる。
例えば、「ドレミ」は「CDE」や「ハニホ」と書いても同じ「ドレミ」である。
バッハの名前のスペルは「BACH」。
そして彼はドイツの方なので、ドイツ語表記の「CDEFGAHC」を使用する。
しかし、彼の名前のスペルをアルファベットに照らし合わせたとき、「B」が音階に無いじゃないという疑問がわくかと。
ここは、楽譜を読む機会が無い方は少々ややこしいポイントでもあるのだけれど、ドレミファソラシドの「シ(H)」のフラットは「ベー(B)」と読むので、
バッハの名前は、「BACH=シ♭ラドシ」と音階に使用されているアルファベットのみで構成することができる、というわけだ。
アルファベット全てを音階に置き換えることができるわけではないため、暗号化できる単語は限られてしまうけれど、このルールを使うと、ちょっとした言葉を音に忍ばせることができ、
バッハは、これを利用して楽譜の中に、音を使って自分の名前を署名したのでは?という話があるのだ。
今回触れた暗号は、音階とアルファベットを使ったバッハの暗号ですが、暗号の忍ばせ方は様々。
彼はアルファベットの並び順と数字を照らし合わせて読み解く暗号も楽譜に忍ばせています。
こちらは、「BACH=シ♭ラドシ」の暗号とはまた一味違ったものなので、こちらのお話はまた機会がありましたときにでも。
このような暗号視点で、音楽や文章、数字等々、様々なものを見てみるのも面白いように思います。
バッハの名や彼の作品に触れる機会がありました際には、今回のお話をちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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