電話をかけた。
調べものをお願いしたこともあり、しばらくの間、保留音を楽しむことになった。
流れてきたのはベートーヴェン作曲の『エリーゼのために』。
保留音とは言え、こんなにゆっくりと『エリーゼのために』を聴くのは久しぶり。
この曲は、学生の頃に習っていたピアノの練習曲だったからなのか、
私にとっては、期日までにこの曲を弾けるようにならなくちゃ、
といった焦りの感情も一緒に思い起こされるメロディーであることに、今更ながら気づかされた。
手持無沙汰だった私はメモ用紙にベートーヴェンの顔の落書きを始めた。
エリーゼというのは女性の名前で、
この楽曲は、ベートーヴェンがエリーゼという名の女性に贈ったものだ。
ただ、彼の人生に登場する女性の中に、エリーゼという名の女性は居なかったという。
それなのに、どうしてこの楽曲のタイトルが『エリーゼのために』なのか。
今回はそのようなお話を少し。
ベートーヴェンがアラフォーだった頃、
彼がピアノを教えていた10代後半の教え子、テレーゼに恋をしたのだそう。
結局、ベートーヴェンはテレーゼにはフラれてしまい、彼女は別の男性と結婚するのだけれど、
時を経て、彼女が大切に保管していた手紙の中から、
ベートーヴェン直筆の『エリーゼのために』の楽譜が発見されたのだ。
ベートーヴェンは、当時の熱い想いを楽曲に込め、
『エリーゼのために』というタイトルを付けてテレーゼに贈っていたのだ。
彼は非常に読みにくい字、不躾な物言いをさせてもらうならば、汚い字を書く人だったようで、
テレーゼと書き記したにも関わらずエリーゼと読み間違われたまま、
この楽曲とタイトルが世に広がり、時代を超えて私たちが知るところとなっている、という背景が『エリーゼのために』にはある。
『エリーゼのために』はテレーゼに贈られた楽曲だという説が有力だけれども、
ベートーヴェン直筆の楽譜はすでに失われていることもあり、
その真偽を確認することは難しいと言われている。
ベートーヴェンは、文字だけでなく、楽譜も汚いことで知られており、
間違ったまま演奏されている楽曲もあるほどなので、自業自得だと言えなくもないのだけれど。
更に時を経て、楽曲を贈った相手は誰だったのか、
という点には新説も出ているようだけれども真実はベートーヴェンのみぞ知る、だ。
今は直筆で何かを伝える場面は、そう多くはないけれど、
直筆で何かを伝える際には慌てず丁寧に。
『エリーゼのために』を耳にする機会がありましたら、
今回のお話を頭の片隅で思い出していただけましたら幸いです。