散歩中のゴールデン・レトリーバーと軽く目が合い、すれ違った。
すれ違ったのは、この時が初めてではない。
大型犬ということもあり、飼い主は、日に何度か散歩に出かけているだろう。
その時とは異なる時間帯にも幾度かすれ違ったことがある犬である。
ゴールデン・レトリーバーを飼ったことはないのだけれど、賢く、温和で、忍耐力をも兼ね備えた、気配り上手な犬種だと聞くから、
体から、可愛いと思う気持ちと興味が入り混じった空気を発しているヒトとすれ違うたびに、「まただな、いつものことだな」くらいは思っていそうだ、と密かに思っている。
ゴールデン・レトリーバーと言えば、イギリス生まれの犬種で、大きな体をしているわりに泳ぎが得意だと言われている。
そして、私が勝手に思うチャームポイントは、あの柔らかい雰囲気で揺れる垂れた耳だ。
世の中にはゴールデン・レトリーバーのように垂れた耳を持つ犬種以外にも、立ち耳、半分だけ立耳、半分は垂れ耳という半立ち耳の犬種がいる。
人によってビジュアルの好みはあるけれど、どの犬種も、その犬種らしい良さがあるように思う。
先日、一部の人々の間で、犬の耳の形による意見が分かれているという、アメリカのニュースに目が留まった。
そのニュースというのは、アメリカの運輸保安局が、局内に所属している探知犬に関して、このような発表をしたからだという。
運輸保安局に所属している探知犬というのは、空港を中心に鉄道やイベント会場など人が集まる場所に出向き、
爆発物や、その他の不審物を見つける保安検査を行ってくれている犬たちのことで、安全性の確保を担っている。
その探知犬の採用を、垂れ耳の犬種から選び、増やしていくと発表したのだそう。
一見、犬種差別のように捉えられないこともないのだけれど、アメリカの運輸保安局が、そう発表した背景には、このような理由があったという。
まず、探知犬の活動場所が空港や鉄道、イベント会場といった人が多く集まる場所であることから、
そのような場所に居合わせる子どもたちを怖がらせないように、可愛らしい印象を与える垂れ耳の犬を採用したいという理由。
もう一つは、とある生物学者による長年の研究によると、
性格がもの静かで人懐こい動物は、軟骨などの細胞を生育させる幹細胞の一種、神経堤細胞が少ないのだそう。
この細胞レベルで起こっていることが動物の耳に現れるときというのは、軟骨が少なくなっている状況が、耳が立ち上がらないという状態で現れるのだそう。
アメリカの運輸保安局は、このような研究結果をもとに、人が言うことをきくことができる従順さや確率が高い犬種を選ぶ方が、メリットがあるといった理由からのようだ。
とは言え、耳が垂れていれば良いという単純なものではなく、犬にも向き不向きがあるため、
しっかりとした判断基準をもとに選ぶことに変わりはなく、立ち耳の犬種も活躍しているそうだ。
しかし、現段階で既に、その割合は垂れ耳80%、立ち耳20%なのだとか。
根拠があり、様々な理由があり、犬種差別をしようだなんて気はないということは理解できるのだけれど、もっと上手に発表できなかったのだろうか、と思ったりもする。
可愛いか否か、怖いか否かの視点だけで見たならば、立ち耳の犬、半立ち耳の犬に対しても可愛いと感じる人は、垂れ耳の犬に対してそう感じる方と大差ないだろうし、
怖いか否かの点に関しても、目にした人それぞれが犬に対して感じることやイメージに委ねられるように思う。
表現は、難しい。
言い方ひとつ、受け取り方ひとつで、如何様にも変化するのだから。
そしてやはり、対象を何かしらの眼鏡越しに見るのはヒトの方である。
そのようなことを思いながら、次は個性的なトリミングが施された真黒なスタンダードプードルとすれ違った、風が冷たい午後である。
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