あの信号には引っかかりたくないな、そのような事を思いながら
少し先の横断歩道へ向かって急いでいた。
少し複雑な交差点なので一度赤信号に捕まってしまうと
しばらく足止めされてしまうのだ。
信号の点滅と共に軽く駆け出してみたけれど間に合いそうになくて
乱れる少し手前の息を整えながら赤信号を眺めていた。
そこへ、まだまだランドセルの方が存在感を放っている小さな子供たちが
２人、３人、５人と次々に増えていく。
季節や気温に関係なく
溢れんばかりの元気という名の熱量を放っている彼らを見て
私はこんなに元気な子どもではなかったような気がするな、
などと思っているとその中にいた女の子が話し始めた。
「ねぇ、ねぇ、宿題の答えわかった？私、わかったよ」
「「なに、なに？」」
「おいしいね、も答えだと思う」
「じゃあ、おかえりなさいは？頑張ってくれてるからそうじゃない？」
「「うん、そうだ」」
「かわいいねは？」
「「うーん。」」
全く話が読めなかった私は、あっさりと意識を他所へ向けようとした時
別の子どもの声を拾った。
「ありがとうと同じ気持ちを伝える言葉だから、
かわいいねはちがうかもよ」
どうやら「ありがとう」のような
感謝の気持ちを含んだ言葉を探してみようという宿題が出ているようだった。
その後も様々な理由と共に子どもたちが
あれこれ自由な発言を繰り返しながら
青に変わった横断歩道を右手を上げながら渡っていった。
簡単なようでいて奥深い宿題がでるんだな、と思った。
小学生の一人が言っていた「おいしいね」。
確かに食事を作った側からすれば、
「ご飯を作ってくれてありがとう」も嬉しい言葉ではあるけれど
「美味しいね」とか「美味しかったよ」と言ってもらえると
作ることが日常で、自分の役割で、避けられないことだとしても、
「作って良かったな」と思えるし、
疲れていても疲れが和らいで
「ありがとう」と言われた時のような嬉しさがあるなと思った。
他の子が言っていた「頑張って(働いて)くれているから「おかえりなさい」」もだ、
という気持ちも確かにそうだなと、
少し先を歩いている小学生たちを眺めながら思った。
待ち時間の長い信号待ちは、
このようなちょっとした出逢いがあるから好きだな、と思う。
「ありがとう」を含んだ言葉。
私にその視点がなくて意識せずに使っていたけれど
改めてそのような視点で自分が使っている言葉や
受け取っている言葉を意識してみると
「ありがとう」の気持ちを含んだ言葉は、たくさんあるのだなと気づかされた。
思いやりも感謝に繋がっているんですね。
彼らの数回りも生きているけれど、
まだまだハッとさせられることだらけで毎日が新鮮です。
