友人が、最近気に入っているボディークリームがあるのだと口火を切ったことがありました。
なんでも、これまで使用していたものとは少しだけ香りの系統が異なるのだとか。
そして、自分が魅せられている香りの正体を突き止めたいのだけれど、たくさんの精油が混ぜられているため成分表だけでは判断がつかないと言って、素敵なデザインが施されたポンプ式の容器に入ったボディークリームを私の前に差し出したのです。
「え?」という私に黙ってコクリと頷く友人。
確かに自分が好きな精油と苦手な精油くらいの見分けはつくけれど、「早く嗅ぎ分けて」と言わんばかりの頷き方に私は思わず噴き出し、「私は警察犬か何かでしょうか?」と突っ込まずにはいられませんでした。
その後、気を取り直してポンプ式の容器から少しだけクリームを手に取り、甲に薄く延ばして香りを吸い込みました。
確かに、深くてスッキリとした女性らしい素敵な香りでした。
知っている香り、知らない香り、成分表を見ながら目星をつけていく中で目に留まったのは「チュベローズ」。
和名は月下香(げっかこう)と呼ばれ、女性の香水やボディーケアアイテムなどに使われる高級な精油です。
きちんと採取されたチュベローズの精油が入っているアイテムは、その量が微量だとしても、それだけでお値段がアップします。
香りは、深くて濃い甘さのフローラル系なのだけれど、甘ったるいだけの香りではなくエキゾチックでスッキリとした印象を併せ持つ洗練された香りです。
ブレンドによってはクセのようなものを感じることもあるのだけれど、いつの間にか、そのクセを含んだ香りの虜になってしまう不思議な香りなのです。
香りだけではなく精油としての効果も充実しており、リラックス効果や鎮静効果に加えアンチエイジングの類の効果もあるため、友人のように、女性が知らぬ間に虜になってしまうのも頷けました。
精油は高価すぎて気軽にラインナップには加えられないのだけれど、古のエピソードを知ってしまったせいでしょうか、妙に詳しくなってしまった香りでもあるのです。
今回は、精油・チュベローズのお話を少し。
そのエピソードというのは、チュベローズの深くて濃い甘さが特徴の官能的な香りには、催淫効果があると言われていたというもの。
女性がこの香りをまとえば、男性たちはその催淫効果によって女性の虜になり続けてしまう危険な香りだとされていました。
しかも、チュベローズが植えられている場所を恋人同士で通ると、香りの効果によって我を忘れて愛し合ってしまう可能性があるため、チュベローズが植えられている場所を
恋人同士で通ることが禁じられていた時代があるというのだから驚きです。
エピソードは、これだけではありません。
女性が香りを纏って男性を誘うことは古の西洋に限らず、世界中で行われていたことですが、イギリスでは、国中の女性が香水の虜になった時代があったのだそう。
きっと、香水をまとった女性の虜になる男性が増えたのでしょうね。
議会が動き出し、「香水をまとって男性を惑わせて決断させた結婚は無効」という法律を作ったのだとか。
そして、香水をまとって男性を惹きつけた女性は魔女と呼ばれたといいます。
この時の香りのひとつとして知られているのが、セクシーな香りとして知られているチュベローズだったのです。
時代が変わってもチュベローズの香りは世の人々に影響を与えます。
フランスで香水と言えばマリー・アントワネットですが、彼女のような家柄の女性はバラなどの香りをほのかにまとい、高級娼婦と呼ばれた女性たちはチュベローズのようなセクシーな香りをまとっていたと言います。
このような状況から、当時のフランスでは、まとっている香りで女性のバックグラウンドを判断していたこともあったのだとか。
現在は自由に好きな香りを楽しむことができる時代ですし、香りや成分がもたらす嬉しい効果も発見されチュベローズの素敵な香りは多くの女性に愛される香りとなりました。
もちろん、女性の魅力を引き出す香りとしての効果も残したまま。
チュベローズの名を目にした際には、香りが持っているエピソードをチラリと思い出していただけると嬉しいです。
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