ある日、映画館のロビーのソファーで開場を待っていたときのことだ。
私の隣に中学生くらいの男の子たちが、ドカドカっと腰かけてきた。
あまりのテンションの高さに場所を移動しようかとも考えたのだけれども、
その中のひとりの子の発した言葉に興味が湧き、その場に止まることにした。
発した言葉というのは、「これ、めちゃくちゃ辛い体勢だー」というもの。
思わず、チラリと視線を送ると鞄の中から本を取り出し、
中に載っている人物のポーズを皆で真似ているようだった。
ん?何処かで見たことがあるような……。
そう思うや否や、「こんな態勢で考えられるか!!」と、もう一人の男の子が発した。
「(あ!そうだ、そうだ。ロダンの考える人)」
私は思わず、声に出してしまいそうになって言葉をグッと飲み込んだ。
総監督のような子が本を手にポーズを支持し調整を加えていく。
「イテテテ……。」
「我慢しろって。右ひじは左脚のこの辺なんだよ」
「やっぱ痛いって。こんな態勢で考えられないって」
え?右ひじは左脚の上だったかしら?
私はスマートフォンを取り出し、こっそりとロダンの「考える人」の画像を覗き込んだ。
「本当だ」
そして、ロダンの「考える人」と呼ばれているあの彫刻が、
考えているのではなく、見ているのだと彼らが気付くのはいつだろうか。
彼らより先に開演時間が来た私は、そう思いながら、ひと足先にその場を離れた。
ロダンの彫刻、「考える人」は、単体作品のように思いがちなのだけれども、
本来は「地獄の門」と呼ばれる大きな作品の一部なのだ。
これが「地獄の門」という作品なのだけれど、
門の上部、中央に見慣れている「考える人」を見つけることができるはず。
彼は、この門の上から地獄の入口へと入っていく罪人や、
地獄を覗き込んでいると言われている。
このことから、「考える人」は考えているのではなく見ているのだと言われている。
地獄の門はフランスのオルセー美術館をはじめとして世界に7つあり、
その中の1つは上野の国立西洋美術館で観ることができる。
機会がありましたら、「考える人」の本来の姿をひと目、いかがでしょうか。
それにしても、映画を待つ間、彫刻を真似るだなんて。
そのようなことに全身全霊を傾けられる彼らが私はほんの少し、羨ましい。
そう思いながら帰路についた。
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