まとまった時間ができたため、
読みかけのまま1年以上も放置していた本を開くことにした。
最初から読み直した方が早そうだと思うくらいに頭の中の記憶も曖昧になっており、
過去に読んだ時間を少しだけ勿体なくも思いつつ、
本に挟んであったブックマークをスルリと引き抜いた。
あぁ、懐かしい。
そう思った私は、分厚い資料のような本をサイドテーブルの上に置き、
しばしの間、ブックマーク代わりに使っていたポストカードに見入った。
随分と過去の出来事になるのだけれど、
これまでに年齢も時季も変えて数回、スペインへ足を運ぶ機会があった。
時季が違えば、観る景色や風の匂いも違っていたし、
年齢が違えば、観る景色や風の匂いの感じ方も随分と違っていた。
変わらず感じたことと言えば、スペインの人々は大らかで自由奔放。
そして、自分の考えをしっかりと伝えることができる方が多いように感じたところだろうか。
そのポストカードは、スペインの首都であるマドリードの紋章にもなっている
銅像の写真が載せられていた。
何度目かのスペインを楽しんでいた時に
ホテルのコンシェルジュの方から素敵なお話と共にいただいた1枚だった。
この銅像というのが、童話の世界を切り取ったようなもので、とても可愛らしいのだ。
スペインの首都マドリードは、最初からマドリードとは呼ばれていたわけではなったのだそう。
諸説あるということだったけれど、
マドリードの人々が好んで話すのはこのようなお話だという。
マドリードは、マドリッドと呼ばれていたこともあるけれど、
マドリードと呼ばれるようになったきっかけは、
童話作家であるアンデルセンがスペインを旅行した時に出会った光景なのだとか。
アンデルセンとは、みにくいアヒルの子、裸の王様、マッチ売りの少女などでお馴染みの彼だ。
彼がスペインを旅していたある日、
母親たちとピクニックに来ていた子供たちが熊に襲われそうになっていたのだそう。
家族は熊から逃れようと、順々に桃の木に登っていた。
先に木の上に登った子どもは、母親が登ってくるのを待ちながら熊の様子を伺っていた。
母親と熊との距離が近づいていることに気付いた子どもは、
母親に向かって「お母さん逃げて」と声をあげたという。
この「お母さん逃げて」をスペイン語で言うと「Madre(お母さん)huid(逃げて)」というらしく、
これが後にくっつき、短くなり、マドリード(Madrid)になったのだとか。
諸説あるにも関わらずマドリードの人々がこのお話を大切にしていることは、
銅像やマドリードの紋章からも伝わってくる。
その紋章は桃の木に手をついて立ち上がっている熊が描かれており、
これは冒頭のような銅像にもなっている。
私が抱いていた「紋章」というもののイメージと言えば、
カッコよくて力強いものだったため、
当時、この紋章の可愛らしさをとても新鮮に感じた事を覚えている。
ポストカードは直ぐに使ってしまう質なのだけれども、
こうしてブックマークと化しているということは、
それくらい新鮮な出来事だったのだと思う。
ポストカードもサイドテーブルに置いた私は、
その時の思い出を辿るかのように今のマドリードの様子をネットで拾い見した。
読みかけの本に手を伸ばすのは、もう少し先になりそうだ。