視線の先にある橋のたもとで、赤い何かが揺れた気がした。
通り道ということもあり、吸い寄せられるかのように橋のたもとへ向かった。
すると、少しだけ早く開花してしまったらしい、
小ぶりな曼殊沙華(まんじゅしゃげ/まんじゅしゃか)が揺れていた。
この花は、本当にたくさんの呼び名がある。
秋のお彼岸の頃に開花することもあり「彼岸花」と呼ばれたり、
サンスクリット語で「天界に咲く花」という意味を持つ「曼殊沙華」と呼ばれることも。
他にも、曼殊沙華は一般的な草木と異なり、
茎の先に花だけが咲き葉は無く、
その花が咲き終えてから葉が伸びるのだけれども、
その葉が冬の寒さに枯れることはなく凛とした姿で冬を越し、
周りの草木が新芽を出し、花を咲かせる春に枯れるのだ。
このように、花と葉の両方を一緒に見ることができないため、
花の名前とは思えないような「葉見ず花見ず」と呼ばれることもある。
私はこのように呼んでいるところを実際に耳にしたことは無いのだけれど、
書物の中では、時々、目にするように思う。
他にも水にさらせば消えるという毒を持っていることから「毒花(どくばな)」とよばれたり、
その毒が痺れを引き起こすのか、「痺れ花(しびればな)」と呼ばれることもある。
また、それらを総じて抱くイメージからだろうか、
死人花(しびとばな)、幽霊花(ゆうれいばな)とも。
このように少しばかり不思議な背景や、
幻想的な背景を連想させるような名前と姿、性質を持った花のため、
映画のシーン等では、メッセージを含ませた演出に使われる花でもある。
作品名もストーリーも忘れてしまったけれど、
私の遠い記憶の中にも、あの世とこの世の「あわいの世界」を描いた作品の中にあった、
一面を真っ赤な曼殊沙華に覆われた場所の映像が残っている。
幼き頃の私にとって、その映像は様々な意味で刺激的だったのだろう。
この真っ赤な曼殊沙華を目にすると、
幼き頃に観たその妖艶で不思議な空間と当時の刺激を身体が思い出し、
少しだけ怯む私がいる。
曼殊沙華の色によって花言葉も少しずつ変わるけれど、
悲しい思い出、想うのはあなた一人だけ、また会う日を楽しみにといったものがある。
マイナスイメージの花言葉という訳ではないものの、
死や悲しみを連想させるものがあったり、
そのような迷信も多く残っているためか贈り物に使われることは、
ほとんどなく、どこかに咲いている姿を遠目に見るか、
自宅の敷地内に植えるなどして愛でる花、という印象が強い。
皆さんのお住まいの地域では、曼殊沙華のことを何と呼んでいるでしょうか。
また、その土地ならではの迷信などを見聞きしたことはありますか。
そろそろ、曼殊沙華の季節がやってきます。
その妖艶な美しさを愛でつつ、
曼殊沙華の不思議な世界を覗いてみてはいかがでしょうか。