久しぶりにカンパンを食べた。
いつぞやかに購入した非常食セットの中に入っていた小さな缶だ。
そんなにパクパクと大量に食べられるものではないだろうと思い、賞味期限に余裕を持たせて少し早めの開封だ。
中からは、素朴で香ばしい香りがそっと鼻の近くに広がった。
カンパンを作っている会社がどれくらいの数、存在しているのかは分からないけれど、
私がカンパンと聞いて思い浮かべるのは、赤い下地に白い文字で「カンパン」と記されており、
チェック柄の衣装をまとった、スコットランドのパイプ隊員のキャラクターが印象的な、三立製菓のカンパンだ。
三立製菓という社名までは知らないという方も、ハート型の源氏パイもここの商品だと言えば、
ほんの少し、身近な印象を受けるのではないだろうかと思う。
小皿に少量のカンパンと、カンパンと一緒に入っていた氷砂糖を一粒乗せ、
淹れたての紅茶と一緒にリビングへ移動した。
せっかくなので紅茶に氷砂糖を落とし入れ、少しずつ甘味が増していく過程を楽しむことにした。
果実酒やシロップ、フルーツビネガー作りなどにも使われる氷砂糖は、そう珍しいものではない。
しかし、そう感じられるのは、氷砂糖が日本生まれのものだからだと知ったのは、
「とてもキレイなこれは何?」と目を輝かせながら訊ねてきた外国人知人のおかげだ。
果実酒などを作るときなどに使われる砂糖で、そのまま食べることもできると伝えながら、
知人の手の平の上に乗せると、宝石でも眺めるかのような表情で、氷砂糖をあらゆる角度から眺めた後、それを口の中へ入れた。
ゆっくりと溶ける氷砂糖の甘さは、知人が砂糖と聞いて想像したような、インパクトのある甘さではなかったようだけれど、
ヘルシーな甘さが癖になるというような感想を述べ、お土産に買うと言い出した。
あまりにも気に入った様子だったため、「砂糖であることには変わりがないから、ヘルシーであるかどうかは分からない」ということを、
当時の私は何となく言いそびれてしまったけれど、帰国後も好評だったときき、言いそびれて良かったと思ったりもした。
少し、お喋りが過ぎてしまったけれど、この氷砂糖は、明治の頃にお菓子屋を営んでいた日本人が考案した砂糖だという。
グラニュー糖を水に溶かして10日以上寝かせると、砂糖の結晶と氷糖蜜というものに分離するそうなのだけれど、
このときにできた結晶を乾燥させると、私たちが知る氷のような砂糖の結晶、氷砂糖が出来上がるという。
そして、冒頭に登場した、カンパンと源氏パイなどでお馴染みの三立製菓が、この製法で氷砂糖を作り始め、日本中に氷砂糖が広まったそうだ。
現在、氷砂糖の製造は他社が引き継いでいるようだけれど、
カンパンと氷砂糖を一緒に食べると、だ液が出やすくなり、水が十分にない非常時でも食べやすいという理由から、
非常食として備蓄される三立製菓のカンパンには氷砂糖がセットになっている。
氷砂糖は他にも、体内に吸収されやすいだけでなく、エネルギーに変わりやすい性質があるため、疲労回復を助けることにも長けているし、
イライラや不安を緩和させるセロトニンを作る成分が含まれている点も、非常食として選ばれる理由であるように思う。
私の場合は、備蓄しているカンパンが賞味期限を迎える際に、口にする以外、
氷砂糖を手に取る機会はないけれど、こうして時々氷砂糖を目にすると、
そう言えば日本生まれだったなと、知人がお土産に買って帰ると言ったときのことと共に思いだす。
氷砂糖を目にする機会がありましたら、
今回のお話の中から何かしらを、ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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