その日は、少しだけ残っていた大福茶を淹れ、お茶請けにと用意した“いちご大福”をお皿に乗せた。
お茶請けと一口に言ってもそのメニューは様々で、個人の好みや世代、その時々のトレンドや地域性が表れて面白い。
ここまでバリエーション豊かなのは、日本の特徴ではないかと思ったりもする。
お茶請けに用意するものに特別な決まりがないのは、お茶請けのお役目がお茶の引き立て役だけでなく、体に負担をかけないようにするためのものだからだと聞いたことがある。
空腹時にお茶のみを口にしてしまうと、胃酸が過剰分泌されて胃にダメージを与えてしまうため、
余計な負担が胃にかからないよう、何かしらの食べものを添えることが目的なのだそうだ。
あってもなくても構わないというようなモノゴトの中にも優しさが見え隠れ。
日本の茶道に興味を持つ方が多いけれど、このような奥深さに一度気が付くと、虜になってしまうのだろうと思う。
そのようなことを思いながら、いちご大福を一口。
その日のいちご大福は大当たりであった。
ここで言う「大当たり」は味の良し悪しではなく、いちごのコンディションのことである。
昨今、発酵食品に感心を寄せる方が増え続けているけれど、いちご大福も発酵食品と言えるのだと知ったのは、4、5年ほど前のことだ。
当時、近所にあった和菓子屋でいちご大福を選んでいたのだけれど、思わず声をかけてしまいそうなくらい真剣オーラを放っていたのか、
お店の方が「全部出来立てですし、いちごも新鮮だから美味しいですよ」というようなことをおっしゃった。
いちご大福は時々、食べたときにピリッと感じるものに当たることがある。
この正体が分からなかったこともあり、少しじっくりっと眺めるようになっていたのだろうと思う。
私は、決してお店の商品を疑っていたわけではなかったけれど、失礼な態度に映ったのではと内心ドキッとしたのだけれど、
お店の方の「ピリッとしないですよ」という言葉に安心して、「ピリッとするかしないか、どうしたら分かります?」と尋ねてみた。
すると、外側から見ただけでは分からないけれど、
いちご大福を食べたときに、いちごが傷んでいるわけでもないのにピリッと感じられるのは、いちごが発酵しているからだと教えて下さった。
いちごの酵母菌は、フルーツのなかでも特に強い上に、自身が蓄えている糖分を自分で分解する性質があるのだろう。
そして、この分解の途中で炭酸ガスと水分を放つため、この炭酸ガスを舌が感じっているというのだ。
通常は、炭酸ガスも水分も空気中に解き放たれてしまうため、私たちの舌が接触する機会はないのだけれど、
いちごの分解作業に必要な糖分が含まれた餡子で全身を覆われ、
更に、発生した炭酸ガスと水分が、簡単には空気中に解き放たれないよう、お餅で包まれているいちご大福は、いちごが発酵しやすい環境が整っているお菓子というこのようだ。
いちごは熟す過程で発酵が進んでいくため、このピリッと攻撃を避けるためには、
【1】食べ時に熟すように計算してあるいちご大福を選ぶ。
【2】出来る限り新鮮ないちごを使って作られたものを選ぶ。
【3】購入後は出来る限り早く食べる。
というのがポイントなのだそう。
しかしワタクシ、いちご大福購入時にお店の方に【1】と【2】を尋ねることには抵抗があるため、お店を信じて購入し、出来る限り早く食べるようになった気がしている。
それでも、様々な自然界の偶然が重なり、ピリッとしたハズレを口にしてしまうこともあるのだけれど、
その原因が発酵であり、炭酸ガスだと分かっていると、ハズレだと感じないところが不思議である。
このような一方的な身勝手も楽しみつつ、今年はじめてのいちご大福を堪能したわけですが、
皆さんも、いちご大福を召し上がる機会がありましたら、
ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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