江戸で食べられていた料理や、武士が口にしていた料理が注目されることがある。
先人たちが口にはできなかったような美味しさを知っている現代人が、
どうしてそこまで当時の料理に魅了されるのか、ふと、その理由をのぞいてみたくなり、手当たり次第、関連書籍を読み漁った。
美味しそうだと感じたものもあれば、本当にこのようなものを食べていたのだろうかと驚くものもあったけれど、
現代のような栄養学が無い時代であったにも関わらず、
私たちの暮らしにも役立てられる知識を、先人たちは知ってか知らでか既に手にしており、
生死をかけた人生を送った武将たちが長寿だったことも興味深いと感じられた。
ひとつひとつのメニューから垣間見える、時代背景や人々の暮らし、彼らの波乱万丈な人生もまた、
現代人の心に、何かしらのスパイスを加えているのかもしれない。
私たちの身近にあるスパイスと言えば、胡椒もそのひとつ。
胡椒は随分と古い時代に中国から日本に渡っており、江戸時代には調味料として以外にも、
お口の中をスッキリさせる、今で言うところのフリスクのようなものとしても使われていたという。
この、胡椒を使った「胡椒めし」、最近は、レシピ本やレシピサイトなどで目にする機会が多いのだけれど、江戸の町で流行ったと言われている一品である。
まだまだ日本で玄米が主食とされていた時代、江戸の人たちは玄米ではなく白米を食べるようになっていた。
今のように栄養が十分に行き届く食環境ではなかったため、
玄米から白米に変えたことで栄養のバランスが崩れ脚気患者が増えたりもしているのだけれど、
それでも、江戸の人たちは白米をより美味しく食べようとしていたことが分かる、色々なレシピが残されている。
胡椒めしは、温かい白米に、だし汁を注ぎ、粗く挽いた黒胡椒をふりかけた、お茶漬けのようなもの。
これを料理と呼んで良いものが躊躇われるくらい、とてもシンプルな一品だけれども、だしと黒胡椒の相性が抜群なのだ。
このだし汁を替えたり、だし汁の替わりに卵を落とし、黒胡椒でピリッと引き締めたりといったアレンジを加えたものを
飲んだ後の〆の一杯としてお店のメニューに取り入れているところもある。
現代人が味わえばシンプルさが身に染みる一品であり、決して派手な美味しさではないのだけれど、
“だし”の繊細な美味しさに敏感な日本人が、ピリッとスパイスで攻めたレシピだったからこそ、
江戸の町で流行ったレシピなのかもしれない。
当時と今とでは注目されるポイントは異なっているけれど、いつの時代も、美味しいものは美味しいということなのだろう。
雑炊やお茶漬け、卵かけごはんなどを召し上がる機会がありましたら、
黒胡椒をピリッときかせて江戸料理の「胡椒めし」、味わってみてはいかがでしょうか。
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