引っ越しをする度に困るのは、予防歯科のための歯科クリニックを探すことである。
かかりつけのクリニックがあれば、お口の中で異変が起きたとしても、プロに早期発見してもらえるため、大事に至ることはないという安心感がある。
しかし私は、もう随分といい大人だけれど、歯科クリニックは未だに苦手な場所のひとつなのだ。
とは言うものの、安心して通える歯科クリニックに出会うことができると、まるで習い事に行くかのような気分でエントランスに足を踏み入れることができるため、歯科クリニック選びには余念がない。
ただ、引っ越しをする度にクリニック選びは振り出しに戻り、現在はクリニック探しをサボり続けたまま、数年が経過している。
幸い、お口の中のトラブルもないためセルフケアで事足りてはいるのだけれど、そろそろね……と最近、重い腰を上げて探し始め、自宅から徒歩1分という距離の歯科クリニックへ行くことにした。
移動時間がかからないという点も魅力だったけれど、決め手は、子どもからの人気が高かったことである。
初診時は少し緊張してクリニックへ入ったのだけれど、そこでリラックスしている子どもたちの様子を見て、「ここはアタリだ」と思った。
通された待合室のソファーに腰掛けると、少し離れたところにいた小学生が近寄ってきて「怖くないよ、これ読んで待っててね」と一冊の本を差し出してくれた。
ご丁寧に、読み終わった本は本棚へ戻さなくてはいけないということも教えてくれた。
その子の母親はすぐさま私に駆け寄り、子どもが失礼なことを言ってごめんなさいと言ったけれど、私の体から苦手意識が漏れ出していたのだろうか。
子どもの察知能力は侮ってはいけない、と思った。
お喋りが過ぎてしまったけれど私の苦手意識はさておき、この時に小学生の子どもが手渡してくれた本が、なかなか面白い本だったのだ。
後で調べてみたところ、一冊はルック・バーカー氏の著書を翻訳した動物図鑑シリーズの中の『せつない動物図鑑』というタイトルで、もう一冊は、今泉忠明氏の著書の『ざんねんな いきもの事典』というものだった。
ご存知だという方もいらっしゃるかもしれないけれど、2冊ともクスッと笑えて、ちょっぴり切なくて、少しためになる動物のことが記されていた。
ここで語ってしまうのはとても勿体ないので、私の要約でほんの少し触れるだけに留めておこうと思うけれど、
いきもの事典の中では、サイの角に関してこのようなことが記されていた。
人は昔からサイの角に魅せられてきた。
工芸品として加工したり、漢方薬の材料として使っており、それらはどれも高価なものだった。
もちろん、素材そのものが高値で取引されていたこともあり、多くのハンターたちがサイを狩り続けてきたため、今では現存するサイの種類全てが絶滅危惧種なのだそう。
その、多くの人が魅せられてきたサイの角だけれども、その正体はサイの皮膚の一部が硬くなってできたイボだというのだ。
そして、角を持っている動物と言えばウシやシカもいるけれど、彼らの角はカルシウムで出来ているけれど、サイの角は私たちの髪の毛や爪と同じケラチンで出来ているという。
ここで説明が終われば、「同じ角でも成分が違うのか」「漢方薬にするならカルシウムの方が良さそうだな」くらいの感想で次のページへと進むのだろうけれど、このページは次の文章で締めくくられている。
「ありがたがって漢方薬にしても、そのへんのおじさんの爪をせんじて飲むのと大差ありません。」と。
サイの角を含む漢方薬を口にされている方がこれを見たら、眩暈ものだろうと思うけれど、
この一文のおかげで私はサイの角がイボであることやケラチンで出来ていることを忘れないだろうと思う。
たまには、童心に返ってこのような読書で感性を刺激してみてはいかがでしょうか。
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