ワタシ、エスパーにでもなってしまったのだろうか。
捲っていた手帳を閉じ、そう思った自分に小さな突っ込みを入れつつ、エアコンのリモコンスイッチをグイッと押した。
目にしたページには、「土潤溽暑(つちうるおいて、むしあつし)」とあった。
文字並び順に「土、潤(うるおいて)、溽暑(むしあつし)」と読むのだけれど、並んだ4文字を目にし、瞬時に「つちうるおいて、むしあつし」と読んだわけではない。
それなのに、じめじめ、むしむし、むわっとするほどの湿度を含んだ暑さは瞬時に伝わってきたではないか。
何だろうか、この大地の底から発せられる蒸気と暑さをまとった漢字たちは。
うっかり発熱しそうになった体と脳内を、エアコンから吹き出した冷気を浴びてクールダウンさせた。
お察しの通り、「土潤溽暑(つちうるおいて、むしあつし)」は、七十二候のひとつで7月28日から8月1頃までが、こう呼ばれる期間のようだ。
このような日々は、確実に人の体力を奪っていくのだけれど、植物たちは十分な水分太陽の日差しによって、生命力を爆発させているようにも見える。
先日は道端で、青々とした狗尾草(えのころくさ)を発見した。
耳慣れない名前だけれど「猫じゃらし」の異名を出せば多くの方が、あぁ、あれね。と子どもの頃に遊んだ草を思い浮かべるのではないだろうか。
細い茎の上に、フサフサとした犬の尻尾のようなものが付いている姿から、「狗(=犬)の尻尾のような草」と言う意味で狗尾草(えのころくさ)と名付けられたのだとか。
しかし、この狗尾草(えのころくさ)を使って猫を遊ばせる様子から付けられた、異名の「猫じゃらし」の方が知名度が高いように思う。
うろ覚えになってしまったけれど、イギリスでは、この種族の植物全てを「狐の尻尾草」と呼んでいたように記憶している。
狗尾草(えのころ草)や猫じゃらしという言葉は、秋の季語として親しまれているのだけれど、狗尾草(えのころ草)にはいくつかの種類があり、青々とした狗尾草は、この時季から初秋辺りまでが開花時期である。
植物を見ていると、植物も季節も待った無しの全力投球だと、いつも思う。
今日も心残りのない全力投球の1日をと思いながら手帳を開き、
再び目にした「土潤溽暑(つちうるおいて、むしあつし)」の4文字にいとも簡単に圧倒され、デスクに突っ伏した午後である。
日本語がおかしいけれど、ほどほどの全力投球で心残りなくいきませう。
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