その日は、国際宇宙ステーション(ISS)“きぼう”を肉眼で観ることができるという日で、予定時刻の少し前からベランダにスタンバイしていた。
時間前なのに、大きめの光が通過していくものだから「え?もう?」と胸が高鳴ったけれど、よく見ると飛行機の翼についているナビゲーションライトであった。
しかも、方角も進行方向も異なっていることに気が付き、自分を落ち着かせるために、深呼吸をした。
すっかり日が沈んで空は夜の顔に変わっていたけれど、体内に取り込んだ空気は昼の残り香のような熱を帯びており、あっという間に体感温度が上がったように感じられた。
初日は、お天気と雲の影響で見つけることはできなかったのだけれど、それ以降は、「あれだ」と思えるものをすぐに肉眼で捉えることができた。
流れ星よりもゆっくりと移動するISSを観測できる時間はわずかしかなく、思わずISSへ向かって手を振りたくなってしまった。
誰に見られるわけでもないのだから豪快に降ればいいのだけれど、妙な恥ずかしさが湧いてしまって、ただただ眺めるだけの時間となった。
この日は、他にも濃い色をした満月や土星、木星を楽しんだ流れで、この時季に見ることができる「酒酔い星」の異名を持つアンタレスを探してみたのだけれど、この日はお酒が足りていなかったからなのか、私には赤い輝きを放つアンタレスを見つけることはできなかった。
それでも、短時間ではあったけれど、久しぶりに天体観測の雰囲気を味わうことができ、気持ちが随分と潤ったように思う。
赤い輝きと言えば、その日の昼間にマンションのエントランス近くで会った管理人さんに、赤色をした可愛らしい草花をいただいた。
見たことがあるような無いような雰囲気の草花で、名は「水引草(みずひきそう)」だという。
夏から初秋にかけて花を咲かせるそうなのだけれど、正直なことを言えば、パッと見は草花というよりは雑草という印象が強く、管理人さんもマンション内の花壇から芽を出していたそれを、雑草として引っこ抜いていたところであった。
管理人さんは、わざわざ育てる方がいる草花ではあるのだけれど、この水引草(みずひきそう)が花壇の所々に中途半端に生えていると、花壇の草取りをしていないように見えるから抜いていると作業理由を説明しながら、少し持って帰る?とハサミで見栄えを整えたものを私に差し出した。
雑草?草花?と私の脳内が小さな混乱を起こして返答を迷っていると、管理人さんは「雑草だからゴミになるかな」と言いながら水引草(みずひきそう)を握った手を引っ込めたので、慌てて「じゃぁ、少しだけ」と答え、それを手に自宅へ戻った。
ミニグラスに生けてよく見ると、紫がかった赤色をした小さな花が、茎にくっつくようにして等間隔に咲いており、なかなか可愛らしい表情をしていた。
小さい花には白っぽい部分もあって、この名前の語源でもある、私たちが良く知る紅白の水引のようにも見えた。
夏の夜空に輝く赤いアンタレスを見つけることはできなかったけれど、ダイニングテーブルの上には夏の、小さくて赤い水引草が。
ささやかだけれども、我が家に不意にやってきた夏の欠片である。
※酒酔い星の異名を持ち、先人たちが豊作の見極めに使っていたアンタレスにご興味ありましたら、下記の過去記事も合わせてどうぞ。
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