ジリジリと私の細胞を焼きつくしてしまいそうな程に暑かった今年の夏、
私はすてきなご縁に恵まれた。
笑顔がとってもキュートな彼女との暮らしが始まったのだ。
この笑顔がとってもキュートな彼女とは、ガーデニング雑貨なのだけれど、
陶器のような素材で出来たふくよかな白い鳥の置物のことだ。
室内の観葉植物の側に置こうか、ベランダの観葉植物の側に置こうか、迷いに迷って、ベランダに置く事にした。
本当は室内で眺めていたかったのだけれども、彼女を眺めていると、
鳥かごのような室内に閉じ込めておくよりも、
自然の空気に触れていたいのではないだろうかと思えてベランダへ。
彼女は、鳥の置物なのだけれど、とても美しい顔立ちなのだ。
毎日ベランダに出ると変わらぬ笑顔を向けてくれている。
お月見の夜は、お酒片手に月と彼女をチラチラ眺めて楽しんだ。
そんな生活を送っていたある朝、我が家のテラスに事件の匂い漂う出来事が起きた。
「ポーポーッ、ポーポーッ」
鳩の鳴き声だ。
学生の頃、ベランダに鳩の巣を作られて以来、このような鳴き声がベランダで聞こえると、
鳩は巣を作るための場所としてここを狙っている!戦わねば!と思ってしまうのだ。
その日も、私は鳩の鳴き声が聞こえたと同時に部屋の中から思いっきりベランダへ飛び出した。
その勢いに驚き鳩は退散する。
この縄張り争いの攻防戦は鳩と人間との根競べで、しばらく続く。
このような事をしばらく繰り返していたのだけれど、ふと、ある疑問が浮かんだ。
この鳩、「つがい」ではないのだ。
これまでの経験では、鳩はつがいでやってきて場所を狙っていた。
私の見えない所にもう一羽居るのだろうか。
このようなパターンもあるのだろうか。
などと思っていたのだけれど何かが違っているように感じられた。
その後しばらくして、私は、ある光景を目にした。
「笑顔がとってもキュートな彼女(置物)」から1メートル程の距離をとった場所で
その鳩は彼女の方を見て鳴いているのだ。
え・・・・・・っ?
ん・・・・・・っ?
えぇぇーーーっ?!恋???
いや、まさか・・・・・・ね。
私は、毎日ほぼほぼ同時刻に来る鳩を、カーテンの隙間から観察してみることにした。
ベランダの床に着地した鳩は少し高い位置にいる彼女を見上げ鳴いている。
もう、私の頭の中は「ロミオとジュリエット・鳩バージョン」だ。
はじめは、鳩から見ても美人さんなのかもしれないと思って見ていたのだけれども、
これは、どうしたって叶わぬ恋。
ロミオ鳩に「その彼女、置物だよ」と伝える事もできず、次第に切なさがこみあげてきた。
新しい巣の場所探しではないと分かり、私はロミオ鳩が来てもそっとしておくことにした。
その後、何度かやっては来るものの鳴かずに見上げるだけの日が続き、いつの間にかロミオ鳩は来なくなった。
ロミオ鳩が来なくなった理由は、恋を諦めたからなのか、置物だと気付いたからなのか、
私にはそう見えただけで、もっと他の自然界の理由だったのかは、私には今も分からない。
ただ、それは、私が見た今年の夏のちょっぴり切なくて心温まる不思議な光景だった。
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