我が家のベランダに置いてあるガーデンテーブルは時々、野鳥たちの憩い場と化する。
餌付けをしたわけでも、しているわけでもないのだけれど、
どういうわけだか、どこに住んでも野鳥たちがやってくる。
悪さをしたり巣作りをするようであれば、
こちらも心を鬼にして縄張りの主張をしなくてはならないけれど、
彼らは数羽でやってきては、ただテーブルの上で楽し気に鳴いて去っていくのだ。
最近では、私がお茶をしていても、本を読んでいてもお構いなし。
すぐそばで、小さな頭をコクッ、コクッと揺らし合いながら談笑している。
緊張感をどこかに落としてきてしまったような彼らを視界の端で捉えながら、
そのようなことで厳しい自然界を生き抜くことができるのだろうか?
と余計な心配をしてみたりもするのだけれど彼らに癒されていることもあり、
追い払うことはせずに、付かず離れずの関係を保たせてもらっている。
しかしその日は、ベランダからいつもの彼らではない妙な鳴き声が聞こえたのだ。
キュッ、ケホッ、ケホッ……キュッ。
リズムも悪く、詰まり気味の鳴き声に思わず作業の手を止め、
「え……、大丈夫?」と声を出してしまった。
そろりそろりと窓際へ近づき来客を覗き見てみると、
スズメよりも少しだけふくよかで、ほんのりと緑がかったボディーをしていた。
そう、来客の正体はウグイスの子どもだったのだ。
日本ではウグイスのことを「春告鳥」と言い、
私たちは美しい美声で発せられるホーホケキョを耳にして春を味わうけれど、
ウグイスは始めからホーホケキョとは鳴かない、というよりは鳴けない。
春先からホーホケキョと鳴けるように練習に練習を重ね、
少しずつ私たちの知るウグイスへと成長する。
どうやら、その日の来客は、我が家のテーブルの上を自主練の場として選んだようだった。
それから短い時間だったとは思うのだけれども、
しばらくの間、そのウグイスはお世辞にも上手だとは言えないような鳴き声を辺りに響かせていた。
いつの間にか姿は見えなくなっていたけれど、
桜が咲くころには、ホーホケキョと素敵なさえずりを聴かせに来てくれるだろうか。
何処かで、あの子のさえずりを耳にすることができるだろうか。
普段は、自らウグイスのさえずりに意識を向けることはなかったのだけれど、
今年の春は、ウグイスの声を拾い聴きする春になりそうだ。
あなたのそばにも、春本番に向けて練習に励んでいるウグイスがいるかもしれません。
練習中のウグイスに遭遇されました際には、
温かい気持ちで見守ってあげてくださいませ。