カップボードに置いてある年季の入った砂時計を取り出した。
本来の役割ではなくインテリア雑貨としての役割が大方を占めているそれは、
イギリス生活を送っていた頃に購入した品。
ふらりと入ったティーサロンで紅茶をオーダーした際、
凝った作りの砂時計が添えられて出てきたのだけれども、
それを目にした時に、「素敵!」と胸が飛び跳ねたのだ。
お土産にもできそうなカラフルな砂が入れられたお手軽な砂時計は、
日々、様々な所で見かけていたけれど、
こんなにも素敵な砂時計があるのか、と思ったのを覚えている。
それからは帰国する日までに、
ずっと大切にしたいと思えるような砂時計をひとつ探すことも
日常の中に在る小さな楽しみのひとつになった。
砂時計と聞くと随分と古いアイテムの様に感じられるのだけれども、
記録が十分に残っていないこともあり、
いつ作られたものなのか、誰が作ったものなのか定かではありません。
ただ、航海には欠かせないアイテムだったようで、
あの冒険家、探検家として知られているコロンブスやマゼランも
多くの砂時計を持って航海をしていたそうです。
これは広く知られておりますが、
マゼランの航海日誌には18個の砂時計を使用していた記録が残されているのだとか。
18個もの砂時計をどのように使いこなしていたのか、
その答えに辿り着くことはできませんでしたが、
やはり航海には欠かせないアイテムだったということなのでしょう。
人は、いつの時代も見えないものを形にしてみたくなるものなのかもしれません。
自然の力を使った時計は日時計や水時計、砂時計などありますが、
日本では江戸時代に香時計(こうどけい)というものも流行っていたようなのです。
どういうものかと言いますと、
灰を敷き詰めた四角い盤に筋道をつけるようにしてお香を配置します。
お香の端に火をつけ、お香が燃えた長さから時を確認していたのです。
お香は一定の速度で燃えますし、香りも楽しめることから人気になったのだとか。
また、お線香は長さが決まっていたためお線香を何本焚いたかによって
時間の経過を見ることもあったようです。
時間の感じ方も計り方も時代により、アイテムにより様々ですが、
その大らかな時間の感じ方を少し羨ましくも思います。
私が帰国する直前に手に入れた砂時計は、
繰り返される引越に負けて割れるということも、
無くなってしまうということもなく、今も私の生活を静かに見守ってくれております。
そして、本来の持ち味を発揮させてあげられていないような罪悪感から時々、
紅茶が出来上がるまでの時間を計るために、カップボードから取り出すのです。
砂時計を使ったから紅茶が美味しくなったというようなことはないのですが、
砂時計を眺めている時間だけは普段とは違う、
大らかな時間の感じ方ができているのかもしれません。
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