差し入れにいただいたクッキーをお皿に盛り付け、柚子の香りが爽やかな和紅茶を淹れた。
お皿とマグカップを手にPCの前に座ろうとしたのだけれど、それらを握る手に力を入れ直し、気分転換にリビングへ移動した。
厚みがあり、口の中でほろほろと崩れるクッキーには、パティシエこだわりの岩塩とキャラメルが練り込まれており、甘味と塩味のバランスがたまらない危険な味がした。
いつ頃からだろうか、スイーツ界に甘味と塩味のコラボレーションが登場しだしたのは。
甘いだけのものよりも、甘味にほんの少しの塩味が加わることで甘さが増したように感じられ、甘味に飽きそうになると、今度は塩味が顔を出し、それを口にする者を無限のループの入り口へと誘うのだ。
甘味の主であるお砂糖は、快楽中枢を刺激し、神経伝達物質のひとつであるエンドルフィンを分泌させると言われているけれど、
エンドルフィンは、気持ちをリラックスさせたり、抵抗力を高める効果があるようで、
副作用がないモルヒネと表現されることもある。
と同時に、「あと1枚だけ」「あとひと口だけ」「あと少しだけ」といった罠にはまってしまうこともあり、個人差はあるものの甘味に依存してしまう人も少なくない。
そもそも、どうして甘味と塩味を合わせると私たちは虜になってしまうのか。
そのようなことを思いながら、私は2枚目のクッキーへと手を伸ばした。
私たちの味覚は、舌の上にある「味蕾(みらい)」と呼ばれる味を感じることができる小さな器官が担当している。
甘味や塩味などを感じる神経は、個別に役割分担されており、甘い、辛い、酸っぱい、苦いといった味を認識するまでには時間差があるという。
この、味を認識するまでの時間差によって、塩味は甘味よりも早く認識できるそうで、
最初に塩味を感じるからこそ、その後にくる甘味が、本来の甘さ以上に甘く感じられ、じんわりと口の中に広がっていくのだ。
塩とキャラメルを合わせたものや、塩とチョコレートを合わせたもの、柿の種にチョコレートをかけたようなものなど、塩味と甘味を合わせたメニューは、ひと口で2度美味しい味蕾(みらい)マジックということである。
そして、このマジックにかかってしまった人々によって、甘辛い味は形をかえながら定着し、進化を続けているのではないだろうかと、その道のプロである知人に聞いたことがある。
美味しくてリラックスできる甘辛い誘惑を楽しむ日があっても良いけれど、食欲の秋です。
甘辛い誘惑から抜けられなくなるような事がないよう、ご注意あれ。
関連記事: