外の空気を吸いたくなってベランダへ出た。
出た瞬間、私の体にぬわっとした夏の熱気がまとわりついた。
室外機も夏のそれに負けず劣らず熱風を放っていた。
何度か深呼吸をして部屋に戻ろうとしたとき、
どこからともなく蚊取り線香の香りが鼻を擽った。
「あ、これぞ夏」
私はつい、その途切れ途切れに漂ってくる蚊取り線香の香りを吸い込んだ。
あの深緑色をした渦巻き型の蚊取り線香を夏の風物詩だと感じる人が
どれくらいいるのだろうか。
子どもの頃は夕方になると家中の各部屋と庭に蚊取り線香が焚かれていたのだけれど、
実家を巣立ってからは家の中で蚊取り線香を焚くことはなくなってしまった。
今は、我が家にもあるにはあるのだけれど
密閉性の高い性質のマンション内で使うには使い勝手が少々悪く
蚊取り線香は専ら外で使用するものになっている。
煙のないタイプやお香のような香りのする蚊取り線香もあるようだけれども、
私の中で「蚊取り線香」と言うと、
あの深緑色をした個性的な香りのするあれなのだ。
蚊取り線香は明治時代に作られたもののようです。
現在私たちが手にする蚊取り線香は化学薬品が配合されているものが多いのですが、
明治時代に作られたものは「除虫菊」という菊の成分が練り込まれたものでした。
名前の通り虫除けに効果のある成分を含んだ菊なのですが、
原産国は地中海付近の国々で日本はこれを輸入していたのだそうです。
お線香やお香といったものを日常的に使っている日本人が使いやすいように
お線香と虫除け成分を合わせた日本の発明品だたからこそ、
こうして長い間、親しまれているアイテムのひとつなのでしょうね。
形状も一般的なお線香と同じ棒状のものだったようなのですが、
棒状のものですと直ぐに新しいものを焚き直さなくてはいけないため
改良が重ねられて現在私たちが知っている、あの渦巻き状のものが誕生しました。
本来日本には無かった防虫菊ですが、
蚊取り線香だけではなく農業用の殺虫剤としても使用されていたため
一時期、防虫菊の生産は世界1位になり、
日本から世界に防虫菊を輸出していたようです。
しかし、化学薬品が現れてから防虫菊の生産は激減してしまったのだそう。
その防虫菊が、今再び見直されています。
防虫菊を使って作られた蚊取り線香や殺虫剤は、
人や動物には害がなく、昆虫などに対してのみ猛毒になるという特殊な作用があるといいます。
防虫菊は、人やペットにも優しく、農作物の残留農薬問題という観点からみても
優れている上に安心して使用することができるのです。
虫除けアイテムを購入される際には、
成分の中に防虫菊(シロバナムシヨケギクと呼ばれることもあるようです)が入っているか
見てみるのもいいのではないでしょうか。
夏の香りに歴史あり、ですね。