様々な国の特徴によって区別された色の資料に目を通していた時のこと。
日本の伝統色というのは、とても繊細な色合いなのだと改めて感じさせられました。
落ち着いた色合い、鮮やかな色合いとありますが、グラデーションを細かく切り取ったような細やかさがあります。
これは、移りゆく季節の中で自然の中にある色を繊細に感じとった、先人たちの感性の豊かさあってこその色揃えなのだろうと思うのです。
お着物を想像していただくとイメージしやすいと思うのですが、日本の伝統色は自然の色を切り取っているからこそ、落ち着いた色と鮮やかな色を合わせても喧嘩することなく馴染んでしまいます。
皆さんもご存知の通り、日本には今の私たちの様に好きな色を手にしたり身に付けたりできない時代もありました。
禁色(きんじき)という言葉があるのですが、これは、身分によっては使ってはいけないと決められていた色のことを指す言葉です。
反対に、誰でも使うことができる色(使うことを許可されている色)のことを聴色(ゆるしいろ)と言います。
私、初めて聴色(ゆるしいろ)と言う言葉を知った時、使うことを許可されている色が何色があり、それらの色を総じて聴色(ゆるしいろ)と呼んでいるのだろうと思ったのです。
しかし、そうではなくて聴色(ゆるしいろ)という名のひとつの色でした。
どのような色なのかと言いますと、紅花で染められた淡い紅色、今で言うとローズクォーツのような淡いピンク色のことだったのです。
紅花はもっと濃い色を出すことができる植物ですが紅花の染料は高価だったため、色の濃い紅花染は身分の高い人が身に付ける色と決められていたようです。
色の文化は気候や風土によって作られますので、各国にその国の伝統色があります。
日本の伝統色は、日本にある植物から作られた染料で染られた色なので、植物が自然の中に在ったように色も日本の風土に自然と溶け込み、心身をリラックスさせてくれる効果があります。
普段、使われることは少ないのですが日本の伝統色には素敵な名前が付けられています。
微妙な色味のそれぞれに名前がついているので全部覚えるのは難しいけれど、どれも景色が浮かぶような風情のある名前ばかりです。
例えば、夜明けの空のようにオレンジ色にもピンク色にも見える、色と色の狭間にあるような色を曙色(あけぼのいろ)と呼びます。
また、古来から京都で親しまれてきた赤みを帯びた紫色のことを京紫と呼びますが、当時、この京紫に対抗するかのように、江戸では紫草から作った青みを帯びた紫色のことを江戸紫と呼んでおりました。
このように、色の名前と言うだけではなく、景色や人の思いや関係性などが色の奥に広がっています。
中には、この色とこの色は一緒でいいのではないかしら?
と思うくらい繊細な色調違いの色もありますが、先人たちは、この繊細な色の違いをあえて区別していたようです。
まるで色探しを楽しむかのように。
先人たちがすごいのは、この区別だけではありません。
日本の伝統色を作る染料の材料は草木ですので、草木によっては薬効を持っている色もあります。
以前、藍染のお話でも触れましたが、藍染めを施すと生地に抗菌作用が生まれます。
更に藍には虫除けや解毒作用、解熱作用、炎症を抑える作用もあるため、農作業着の染料に使うなどして薬効も活かしていたのです。
そう言えば、薬効ではないのですが、茜色を作るアカネは繊維の耐久性を上げる性質がありますので、古くは、鎧の札(さね)を繋ぎ合わせるための糸を染める時にも使われていたというお話もさせていただきましたね。
自然の恵みを余すことなく使っておりました。
私たちにとっては、好きに選び、使い、纏うことができて当たり前の「色」ですが、
先人たちからすると色と言うのは、豊かさの証や自由の証、そして、憧れでもあったのかもしれません。
だからこそ、素敵な色名を付けたり、色名に意味を持たせたり、情景を込めたりしたのでしょうね。
世界中にある素敵な色も思いっきり楽しみ、感じつつ、日本の伝統色も楽しみたいものです。
伝統色の名前を全部覚えることは難しいけれど、自分の好きな色の名前だけ覚えてみたり、色の名が持つ景色を覗いてみる、というのも色の楽しみ方のひとつではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/