寒の入りをした日、今年は丑紅(うしべに)でも新調しようかと思っていたのだけれど、気が付けば、そう思ったことがすっぽりと頭から抜け落ちたまま、寒の明けまであと数日というところまで来てしまっていた。
以前、この時季は、口紅を新調するのにも良い時季だと軽く触れた記憶があるのだけれど、江戸時代、寒の頃に作られた口紅のことは寒紅(かんべに)と呼ばれており、この寒紅(かんべに)は女性たちにとても人気があったという。
どうして、それほどにも人気があったのか。
それは、寒の内(かんのうち)の間の水は薬だと言われていて、その中でも寒九の日と呼ばれる日に汲む水は、1年の中で最も澄んでおり、腐りにくく、薬効があると言われていたということは先日も話題にさせていただいたのだけれど、
この、スペシャルな寒の内の水を使用して作られた寒紅(かんべに)は、普段の口紅よりも特に高品質で発色もよく、更には水の良さが影響したのか唇の荒れを防いだり、口の中の菌の繁殖を防いでくれると信じられ、一石二鳥以上のアイテムとして人気があったという。
薬効に関しては寒の内の水の影響だと思うのだけれど、発色の良さは、紅花の色素は冷たい水に溶け出しやすい性質を持っているようなので、冬の寒い時季に作られた口紅の方が発色が良かったということなのではないかと思う。
私たちが手に取る口紅の色の多くは、現代技術を使って作られたものだけれど、当時の紅に使われていた紅花の色素は、花びらの中に1%ほど含まれている貴重な赤色を集めて作られたものだというから、寒紅は、様々な魅力が詰まった女性が憧れる最高級品だったようだ。
その寒紅(かんべに)の中でも特に人気が高かった紅は、寒の期間にある丑の日に売り出された紅だったと言われている。
この紅は、「丑紅(うしべに)」「寒中丑紅(かんちゅううしべに)」などと呼ばれており、発売日である丑の日は、早朝から女性たちの列ができるほどだったという。
1年で最も高品質で薬効まである口紅を入手できることも、行列ができる理由のひとつだったようだけれど、彼女たちのお目当ては、丑紅(うしべに)にを購入すると付けてくれる、丑の置物だったのだとか。
今で言うところのノベルティーなのだけれど、この丑の置物には、自宅に持ち帰ったら丑専用の座布団の上に乗せて神棚に飾り手を合わせると、新しい1年は着るものに不自由しないという噂があり、このご利益目当ての女性も大勢いたようだ。
今でも時折、恋が叶う口紅だという噂が広がり入手困難になる口紅があるけれど、いつの時代も女心は大差ないようである。
私の寒の丑の日はと言えば花より団子。
鰻に意識をひっぱられて丑紅(うしべに)のことは忘れてしまっていたのだけれど、寒の明けまでもう少し。
今からでも新調しておこうかしらなどと思いつつ、この原稿をしたためているところです。
本日から如月。
またここから気持ち新たに口角をキュッと上げて、充実した2月にしてまいりましょうね☆彡
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