目を閉じたままシャカシャカシャカと歯を磨きながら、
ふと、私の親知らずは何本残っていたかしら、と思った。
この様子では、もう生えてはこないだろうけれど、
あの痛みを思い出すだけで全身の細胞が縮み上がるような気がするのだ。
いつだっただろうか。
そもそも、「親知らず」なんて名前を誰が付けたのだろうと思ったことがあり、
歯科医師である知人に聞いたことがあった。
「知ったところで役に立てる場所はないでしょ」と返され「(それもそうだ)」と思ったけれど、
あれはきっと「分からない」というサインだったのだろう、と後で思った。
その代わりと言っていいのかは分からないのだけれども、
「親知らず」と呼ばれるようになった由来と共に
「親知らず」を取り巻く環境も変化しているのだという興味深い話をきかせてくれた。
今回はそのようなお話を少し、と思っております。
親知らずをお持ちの方も、もう全部手放してしまったわという方も、
お時間がありましたら覗いて行ってくださいませ。
親知らずが生えはじめるのは10代後半から20代前半辺りだと言われています。
少し生えてくるのが遅いのではないかしら?と思うのですが、
親知らずはスペースを要するため、
顎が小さく歯が生えるだけのスペースがない子どもではなく、
顎が成長した後に生えてくるのだそう。
そうなると、顎が成長した頃には子どもが親元を離れる時期と重なることも多く、
親が子どもの親知らずの生え始めを知らないため、親知らずという名がついたのだそう。
ただ、親が子どもの親知らずの生えはじめを知らないという由来のもとには、
このような時代背景がありました。
今は、平均寿命は80歳を超えるなどと言われておりますが、戦前辺りまでは40歳頃だったそう。
そうなると、子供に親知らずが生えた時には、
既に親が他界していることも珍しくはありませんでした。
このようなことから、親が知ることのない歯ということで親知らずと。
他にも、通常、歯と言うのは乳歯の後に永久歯が生えるため、
先に生える乳歯を「親」とし、その後に生えてくる永久歯を「子」と例えたとき、
親知らずには先に生えてくる歯が存在しないため、
親を持たない歯ということから親知らずと名付けられたという説もあるのだとか。
親知らずは人によって生えたり、生えなかったり、
生えてはいるけれど途中で成長が止まることもあります。
更には抜いたり、抜かずに済んだりと様々なケースが存在します。
これには生活習慣が関係しているというのです。
もともと、親知らずは固い木の実や固いお肉を食べていた原始時代の頃に使われていた歯で、
酷使して摩耗してしまった歯を支える為に生えてきていたのだそう。
それが時代と共に柔らかい食べ物を食べるようになり、
人の顎は小さくなり、親知らずが生えるスペースがなくなってきました。
すると、親知らずが思うように生えてくることができなくなり、
隣の歯を圧迫したり、生えることができるスペースを探して変な向きで生えてきたりするため、
治療が必要な歯として扱われるようになったそうです。
この状況は時代と共にさらに変化しているのだそう。
最近は口当りのよい噛まなくても食べることができる食べ物が増えたため、
顎も昔ほど成長していないことから、
親知らずが生えないケースが増えつつあるのだそう。
「親知らず」という名前も消えてしまうのかもしれませんし、
お猿さんの尻尾が無くなったように、親知らずが完全に無くなる日も来るのかもしれません。
親知らずと聞いて歯を思い浮かべて下さる方がたくさんいらっしゃるうちに、
幸せのレシピ集でも触れさせていただきました。
歯の生え方にも、生きている時代や子どもの頃の食生活が映し出されているようなのですが、
あなたの親知らず事情は如何でしょうか?