多くの方が、子どもの頃に一度は読んだことがある『千夜一夜物語/アラビアンナイト』には、
魅力的な人物が数多く登場します。
特にアラジン、アリババ、シンドバッドはお馴染みですので、
彼らのストーリーならば名シーンがパッと思い浮かぶ、という方も多くいらっしゃるかと思います。
今回は本来の『千夜一夜物語/アラビアンナイト』に関するお話を少し、と思っております。
お好きなお飲み物と一緒に、ちょっとした読書気分でお楽しみくださいませ。
そもそも『千夜一夜物語/アラビアンナイト』とは、
どのような物語だったか覚えていらっしゃいますか?
『千夜一夜物語/アラビアンナイト』はアラビア文学の古典で作者がいるわけではありません。
様々な国や地域で昔から語り継がれている神話や摩訶不思議な話、
官能的な話、異国の話、空想話、伝説など多種多様なお話を集めた作品集のようなものです。
その中に、私たちにも馴染みのあるアラジン、アリババ、シンドバットなどが登場するお話が含まれています。
このような紹介をしますと、
さぞかし幻想的な物語や手に汗握る冒険談が多数収められているのだろう
と感じられるかもしれないのですが、
『千夜一夜物語/アラビアンナイト』は、ただの作品集ではありません。
アラビア語で書かれている原典に収められている物語の多くは、
子どもには読ませられないような殺人や人種差別、人身売買、拷問の様子、
その他、様々な意味でパンチの効いた話が、
オブラートに包まれることのない状態で繰り広げられております。
人権というものが確立されていなかった時代の外国のお話ではありますが、
当時、倫理委員会のようなものがあったのなら、
大問題どころの話ではないものばかりが並んでおります。
私は、このことを知った時に、原典を忠実に訳していると言われているものを
軽い気持ちで手に取ったことがあります。
しかし、予想をはるかに超える衝撃を受けました。
そのような『千夜一夜物語/アラビアンナイト』ですが、
収められている物語は、シェヘラザードという女性が一夜を共にした王に、
その国の女性たちの命を守るために、
1001夜に渡って様々な物語を語り聴かせるというスタイルで進んでいきます。
シェヘラザードが語る物語も興味深いものですが、
どうして彼女が1001夜にも渡って物語を語っているのか、
そして、物語を語り聴かせる上での彼女の機転の利いた語りっぷりも見どころです。
書店などに並ぶ多くの『千夜一夜物語/アラビアンナイト』は、
作品を発表した国の国民性、倫理観、好みなどを考慮して、
削除、改変、追記などの手が加えられて造り変えられたものを
更に日本語に翻訳したものがほとんどです。
ですから、安心して楽しめる作品になっておりますので、
興味を持たれた方は、GWのお休みなどに手に取ってみてはいかがでしょうか。
とは言え、怖いもの見たさで原典にも興味を持たれた方もいらっしゃるかもしれませんので、
私の記憶に薄っすらと残っているシンドバッドの冒険の原典の内容を、
簡単にご紹介させていただこうかと思います。
シンドバッドが暮らしていた国には変わった決まり事、今で言う法律のようなものがありました。
それは、結婚した後に夫婦のどちらかが亡くなった場合、
残された者は自害しなくてはいけないというものでした。
その方法というのは、残された者は、国がお墓として用意している大きくて深い穴の中に
死者と僅かな食糧と共に投げ入れられ、飢え死にするのを穴の中で待つというもの。
シンドバットは高貴な女性と結婚し、華やかな生活を送っていたのですが、
若くして奥さんが亡くなってしまいます。
国の決まりに従い、シンドバットも奥さんの亡骸と僅かな食べ物と一緒に
大きな穴倉の墓室へ放り込まれてしまいました。
しばらくすると、亡骸と共に残された方が僅かな食べ物と一緒に投げ込まれました。
国の決まり事ですので、このようなことが続くのですが、
生きることを諦めていなかったシンドバットは、人が投げ込まれるたびに
残された配偶者を手にかけ、その人の僅かな食べ物を奪い、食い繋いで生き延びたのです。
このような、人間の奥にあるダークな面が物語として描かれています。
ただ、『千夜一夜物語/アラビアンナイト』を研究している方の研究報告によりますと、
『アラジンと魔法のランプ』、『アリババと40人の盗賊』、『シンドバッドの冒険』は、
アラビア語の原典『千夜一夜物語/アラビアンナイト』の中には存在しないのだそう。
一筋縄ではいかない物語だからこそ、
こうして、現代でも様々な形で語り継がれているのかもしれません。
よく、『千夜一夜物語/アラビアンナイト』は子ども向けのお話か、大人向けのお話か、
などと取り上げられることがありますが、
大人の目で、もう一つの世界も覗いてみてはいかがでしょうか。
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