バスタブの中でゆったりと過ごす時間が心地よく感じられる季節になった。
その日は、お気に入りのアロマキャンドルを持ち込んだ。
本当はボディケアをしたり、タブレットを持ち込んだりして過ごしたかったのだけれども、身体が余裕をなくしかけているような気がして、
ゆらゆらと揺れる炎をボーっと眺めながら、何もせず、浴室に広がるアロアの香りを楽しむことにした。
アロマキャンドルの炎なのか、香りなのか、何が引き金となったのかは分からないけれど、ポンッと脳内にノストラダムスの名が浮かんだ。
日本でノストラダムスと言えば、「ノストラダムスの大予言」の著者で、預言者や占星術師のイメージが強いのかもしれないけれど、彼はいくつもの顔を持った人物だ。
よく知られているのは、彼の医師としての顔。
中でも、南フランスの地でペストが流行した時の話は様々なところで言い伝えられている。
ノストラダムスは、治療をするために南フランスへ行ったそうなのだけれども、そこで、誰よりも早くネズミがペストを媒介することに気付き、
ネズミを退治することや、熱湯やアルコールで街中を消毒すること、死者は埋葬ではなく火葬することなどを指示したのだそう。
至る所で、このような話を見聞きするのだけれど、彼が行った医療活動と、ペストの流行を食い止めたこととの繋がりは、今も迷宮入りしたままである。
彼には他にも顔がある。
私が興味深いと感じているのは、彼の料理研究家、薬草家といった顔だ。
随分と前に彼の著書が翻訳された「ノストラダムスの万能薬」というものを読んだことがある。
その中には、現実離れした魔術めいたレシピが収められていて、おとぎ話の世界に迷い込んだかのような楽しみを味わうことができた。
と同時に、今で言う歯磨き粉や化粧水、美容液、フルーツジャムなどのレシピも載っており、あの白いお髭のおじいさんがこれを作っていたの!?と彼のレシピに惹きこまれたように思う。
物で満ちている現代で「ジャム」と言ってしまうと簡単すぎるけれど、当時の彼はフルーツを長期保存するために丁寧な作業を幾日も繰り返し、
オレンジピールやレモンピールを連想させるようなフルーツの砂糖漬けのレシピを完成させたのだ。
他にも洋ナシをシロップに漬け、何日もかけて丁寧に煮込んで作る、今で言うコンポートのようなもののレシピも作っている。
お料理やお菓子作りをする方がこのレシピと、細かに記されている工程を見れば、今とほとんど変わらないような味を当時の彼らも口にしていたことが想像でき、不思議な気持ちになるのではないだろうか。
日本では預言者、占星術師としての顔の認知度が高い彼だけれど、医師としての顔、毎日キッチンに立つ料理研究家としての顔もあったのだ。
彼が作ったジャムを味わってみたい方、また、彼の医師としての顔、料理研究家としての顔を覗いてみたい方、彼の魔術めいたレシピの世界にツッコミを入れつつ楽しんでみたい方は、「ノストラダムスの万能薬」を覗いてみてはいかがでしょうか。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/