冷蔵庫を開けると中途半端に残っているチューブタイプのワサビが目に留まった。
そろそろ使い切ってしまいたいという衝動に駆られ、
その日のサラダはワサビドレッシングでいただくことにした。
ボウルの中にワサビを絞り出していると友人宅での出来事を思い出した。
友人宅には、私の食事と友人とのお喋りが一段落するのを待ち構えている、小さなオトモダチもいた。
隣の椅子に座っていたのだけれど、その様子は、これから使うのであろうペン類に紙、着せ替えのお人形などを小脇に抱え込むようにして持っており、
私がお箸やグラスから手を放すたびに顔を覗き込んで「終わった?」と聞いてくるのだ。
小さな友よ、大人の食事は単なる栄養補給ではなく、お喋りを楽しみながら、ゆっくりと時間をかけて飲んだり食べたりできるのだよ。
そう言いかけたのだけれども、今にも脇から落ちそうになっているグッズを何度も抱え直す姿に言葉を飲み込み、大人風を吹かせる代わりに「終わったよ」と声をかけた。
椅子からスルンと滑り落ちるようにして降りたオトモダチは、
たたみ半畳ほどの紙とその他をフローリングに広げた。
そして、その紙の上にお人形のお家を書いてとカラフルなペンを差し出した。
ここで言うお家とは、間取り図のようなもののことで、
その間取り図を使って、私が苦手とする“ままごと”をしようと言うのだ。
渡されたペンを使って間取りを書き、
オトモダチに言われるがまま家具を書き足し、ペットとなる猫や犬も書き添えた。
こんなに小さな子どもでも、理想とする家具や配置があるのかと妙な驚きを感じたりもしながら。
はじめは隣で指示を出すだけのオトモダチだったけれど、
何らかのコツを掴んだのか、ペンを握りしめドリームハウス作りに参加し始めた。
2人で作業に没頭していると頭上から友人の
「えーーーー、何してるの!!!!床、床!」と半ば悲鳴にも似た声が降ってきた。
「……ん?あーーーーっ。」
小さな子どものことだ、仕方がないのだけれど、勢い余ってペンが紙からフローリングに飛び出していた。
更に、オトモダチが手にしていたペンは油性ペンだったようで、
床から紙を捲りあげてみると油性ペンの筆圧で芸術的な水玉が至る所に点在していた。
落とす方法はいくらでもある。
例えば、クレンジングオイルや口紅、除光液に歯磨きペースト、重曹やクリームクレンザー、
エタノールに加えて柑橘類の皮なども油性ペン落としに使うことができる。
ただ、物によってはフローリングのワックスまで拭い取ってしまったり、
研磨剤の効果が強すぎてフローリングを傷つけてしまうこともある。
このような時には、どのご家庭にもあるであろうチューブ入りのワサビがいい仕事をするのだ。
自分の失敗に肩を落とすオトモダチと
フローリングに点在してしまった水玉を前にして分かりやすく肩を落とす友人。
私は、テーブルの上に出してあったチューブのワサビを指先に取って水玉の一つに塗り、
円を描くようにして馴染ませたあと、ティッシュで拭き上げた。
「ほら、落ちるよ」
そう伝えた後の2人の笑顔が、親子以外の何ものでもないほど似ていたものだから、思わず吹き出して笑ってしまった。
その後は小さなオトモダチとドリームハウス作りを中断してフローリング掃除に勤しんだ。
これは、ワサビ含まれているある成分が、
油性ペンに含まれている、他の物質を溶かす性質をもった成分と同じなので、
この2つの成分が混ざり合うことによって溶剤が浮きあがり油性ペンのインクを落とす仕組みだ。
肌が弱い場合は、ワサビの刺激に注意が必要だけれども、
フローリングだけでなく皮膚に付いた油性ペンのインクも落とすことができる。
私はうっかり油性ペンを手に付けてしまったときには、
焦らず、慌てず、ワサビ目掛けてキッチンへ直行している。
同じシチュエーションに遭遇した際には、
ダメージが少なく手間もかからないワサビからお試ししてみてはいかがでしょうか。
あなたの知識ボックスの片隅に忍ばせていただけましたら幸いです。