少しずつ寒さも和らいでいるのだと、
寝起き姿のままリビングのエアコンスイッチを押しながら思う朝。
ひな祭り用にと少し前に購入した桜の枝木へ視線を向けると、
あっという間に七分咲きほどの状態になっていた。
淡い桃色をした花びらと、初々しさを含んだ薄黄緑色をした萼のコントラストが
リビングの一角を優しい春の空気に変えていた。
身支度を整えて外出すると、
建物の周りを囲むようにして植えられている寒椿の花は終わりを迎えようとしており、
鮮魚店の前を通りかかると立派な蛤が陳列してあり、
至る所に冬の終わりと春の気配が混在していた。
蛤は冬も美味しくいただける貝だけれども旬は春。
ひな祭りや結婚式などの慶事ごとには欠かせない食材とされている。
姿形が似たような貝殻同氏を合わせてみても、
対となる貝殻以外は決してピタリと合うことはないことから、
蛤は古より縁起物として親しまれている。
美味しさも縁起も申し分ない蛤だけれども、
私はこの時季に目にする機会が増える「貝合わせ」と呼ばれる
平安時代の遊び道具の美しさに心を奪われる。
「貝合わせ」の道貝に使われている貝殻の内側には繊細なタッチの絵が描かれている。
この絵は、源氏物語などの世界が描かれていることが多く、
当時の女性たちは、手のひらに収まる貝殻を覗き込んでは
物語の世界に想いを馳せることもあったようだ。
鑑賞ではなく遊びに使われる貝の数は、90個以上、360個以上とも言われている。
その大量の貝の片方の貝殻のみを大広間に碁盤の目のようにして並べたという。
女官の一人が、並べられていない、片割れの貝殻のみを集めたものの中から1枚を選び、それを参加者の前に置く。
参加者は、この貝殻に触れることなく、大広間に並べられた大量の貝の中から対となる片割れの貝殻を選び取り、
2枚の貝殻を手のひらの中で合わせて合うのか、合わないのかを確認する。
貝殻がぴたりと合ったのなら、その貝を手元に置き、最後に最も多くの貝を集められた人が勝ち、という遊びだったそう。
女の子や女性の健やかな成長、幸運、良縁を表し願う蛤の貝合わせは、
縁起物として贈り物に選ばれることも多く、
サイズやデザインなどの種類も豊富になり、百貨店などでも扱われています。
ひな祭りが近づくこの時季は目にすることも増えておりますますので、
機会がありましたら、雅な貝合わせの世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。
女性の皆さんの幸運を願って、本日はこの辺でおひらきと致します。
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