パウダールームに入ると、シックな着物を身にまとった素敵な女性が目に入った。
普段から袖を通しているのだろうと感じさせるような、余裕を感じる所作に視線を奪われそうになり、
見過ぎてはいけない、いけない。と自分に言い聞かせた。
女性のそばを過ぎようとしたとき、女性の手からぽとりと落ちた口紅が、私の足元近くまで転がってきた。
それを拾い上げて手渡すと、お礼の言葉の後に「紅を差そうと思ったら手が滑ってしまって」と仰った。
それ以上の会話は交わさなかったけれど、
装いと女性がまとう雰囲気に合いすぎていた「紅を差す」という言葉に私の心臓が力強く脈打った。
女性のメイクにも歴史があるけれど、
江戸時代のメイクに使うことができる色は、白と黒と赤の3色だったという。
鮮やかさという点で言えば、使える色は頬や口に乗せる「赤」だけ。
この赤色は紅花から作られていたそうなのだけれども、
1キロの花から3グラムほどしか作ることができなかったため、非常に高価なものだったという。
当時の女性たちは、これを大切に長く楽しむために、唇の中央だけに紅を差すスタイルを生み出している。
更に、当時は、紅を重ね塗りして出す玉虫色の唇が流行っていたそうなのだけれども、
高価な紅を日々たっぷりと重ね塗りすることができる人は、ごく僅か。
そこで、多くの女性たちは、この流行である玉虫色を出すために
まずは墨を唇に乗せ、その上から紅を差して玉虫色風にするメイク法も生み出している。
いつの時代も、どこの国でも、女性たちのおしゃれには、ほんの少しの我慢がつきもののようだ。
この時代の「赤」には、厄除けのような意味も込められているけれど、
紅を楽しむための様々な工夫を知ると、当時の女性たちのおしゃれに欠かすことができない、大切な色だったことが分かる。
紅を使うときには、普段はあまり使うことがない薬指をっており、薬指は別名「紅差し指」とも言われていたり、
口紅や頬紅は「塗る」という表現ではなく「差す」という表現が使われていたことからも、
紅は女性にとって特別で大切なアイテムだったことが伝わってくる。
年に数回だろうか、冒頭で触れたような、同性からみても素敵だと感じる女性に出会う瞬間がある。
その素敵さは、人それぞれで様々なのだけれど、
共通しているのは、自分以外の誰かではなく、自分の魅力をナチュラルに解き放っているように見えること。
その姿は本当に輝いて見えるのだ。
そして、こっそりと、私も便乗したい!と思わされる。
ここへ足を運んでくださっている素敵レデイーの皆さん、
本日も、思い思いの、自分らしさという名の紅をさして笑顔でまいりましょ。
良き日となりますように☆彡
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