そろそろ春らしい花でもとフラワーショップに立ち寄った。
店内の中央に設置してあるテーブルの上には売り物ではない、鑑賞用の季節の花が生けてあるのだけれど、その日は色とりどりのヒヤシンスが飾られていた。
ガラス製の花瓶を使って水栽培されているヒヤシンスだったのだけれど、その見せ方がとても素敵だったものだから、思わずヒヤシンスの水栽培をしてみたいと思ってしまった。
しかし、水栽培を始めるには時期が過ぎてしまっていることを知り、
この「してみたい」という気持ちを、再び訪れる冬まで保つことができたならばそのときにでも。
と、小さな楽しみの種として頭の片隅に置いておくことにした。
ヒヤシンスと言えば、ギリシャ神話に登場する美少年のひとり、ヒュアキントスが由来である。
ギリシャ神話と花の関係と言えば、恋愛や美貌に絡んだ心情がきっかけとなり、姿を花に変えられてしまったというストーリーが非常に多いのだけれど、このヒヤシンスも然り。
あらすじを簡単にお話すると、かつての日本にも似た時代がありましたが、この神話の世界でも恋愛の対象は様々で、
美少年であるヒュアキントスは、豊穣の風の神、西風の神といわれているゼピュロスと太陽神と言われているアポロンに愛されていたという。
ある日、ヒュアキントスはアポロンと二人で円盤投げをして遊んでいたのだそう。
円盤投げをして遊ぶ?という突っ込みは、各々の心の中で楽しんでいただくとして、
円盤投げに興じる2人の楽し気な様子を見てしまったゼピュロスは嫉妬し、その嫉妬をお得意の風に変えて2人に向けて解き放ったのだとか。
すると、アポロンが投げた円盤がゼピュロスの風に流されて、ヒュアキントスの頭に直撃。
現代のようにプラスティック製の安全な円盤ではなく、重たい石の塊と言っても過言ではないような円盤だったと思うのだ。
ヒュアキントスは大量出血し、命を落とすことになるのだけれど、
ヒヤシンスは、この時ヒュアキントスから流れた大量の血から生まれたと言われている。
ギリシャ神話にありがちなストーリー展開だとも言えるのだけれど、
このストーリー以上に興味深いのは、クライマックスでもある、円盤がヒュアキントスの頭に直撃し命を落とすシーンを切り取った絵画がわりと多く存在していることである。
多くの画家の創作意欲を刺激したのだと思うのだけれど、
ヒュアキントスとアポロンの互いを想う愛情にスポットライトを当てたものや、
ヒヤシンスが生まれるところまでを1枚の絵に収めたもの、
円盤が頭に直撃して大量出血したときの様子を、事件の様子を切り取るようにして収めたものなどがある。
このような視点で古い絵画を見比べてみると、同じストーリーを読んでも見える景色は人それぞれで、違っていて当たり前、だからこそ面白いのだと妙に腑に落ちる瞬間がある。
ヒヤシンスを目にする機会がありましたら、今回のお話を、お好きな視点でちらりと思い出していただけましたら幸いです。
ちなみに、この神話のクライマックスシーンが描かれた絵画の目印は、2人の男性と円盤を目印にしておけば、見つけやすいのではないかと。
せっかくの機会ですので、数人の画家の作品をご紹介しておきますので、
幸せのレシピ集内にある小さな美術館巡りをするような気分でご鑑賞いただければと思います。
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