先日利用したカフェの隣テーブルから、「今年のエイプリルフールはこれで決まりだね」と聞こえてきた。
楽しみにしていることが伝わってくるような声色だったものだから、つい口元が緩んでしまった。
自分の“つい”に慌てた私は、緩んでしまった口元に気が付かれぬようティーカップを口元に運び、広げていた手帳に視線を落とした。
エイプリルフールの言葉につられて4月までページを捲ると、1日のところには既にエイプリルフールと印字されていた。
エイプリルフールに関しては潔い程に何も浮かんでこなかったけれど、その代わりに、「四月一日」と書く苗字があることを思い出した。
日本の苗字は種類が多いため、中には、どう読んだらいいのだろうかと躊躇するものがある一方で、なんと粋な苗字なのだろうかと思うような苗字まである。
例えば、先ほどの「四月一日」は「わたぬき」と読むのだけれど、これは昔の風習が関係している。
私たちが衣替えを行うタイミングは、初夏に入る6月と初秋に入る10月頃が多いように思うけれど、平安の頃は、4月1日と10月1日に行うことが決まっていたという。
しかも、当時の衣替えと言えば、私たちのように過ぎたシーズンの衣類を片付けて次のシーズン専用の衣類を出すというものとは異なり、
これまで着ていた秋冬用の衣類に使っていた中綿を引き抜いて、春夏用の着物に作り替える作業を行うものだった。
四月一日は、この綿を抜く作業「綿抜き」をする日だったことから、四月一日と書いて「わたぬき」と読むようになったと言われている。
他にも「八月一日」と書いて「ほづみ」と読む苗字があるけれど、こちらは8月1日に稲の新穂を積み始めていたことが由来だという。
他にも、「一」と書き記す苗字があるけれど、数字の1は2の前に位置することから「一」と書いて「にのまえ」と読むことがある。
私は見慣れていなかったため初めてこの苗字に触れたとき「はじめ」さんかしら?と思ってしまったのだけれど、「にのまえ」だと聞き小さな感動を覚えた記憶がある。
「一」と書いて「にのまえ」と呼ぼう、呼んでもらおうと初めに考えた方は、機知に富んだ方だったに違いない。
珍しい名字でありながら、その可愛らしく粋でもある印象から、
小説などの登場人物の苗字や作家名などにも使われることが多い「小鳥遊(たかなし)」という苗字があるけれど、
こちらは、小さな鳥が遊んでいるということは、その小さな鳥を狙う鷹は居ないということから「たかなし」と読むのだそうだ。
以前、こちらでも苗字、姓のルーツの話題に触れたことがありますが、
自分で好き勝手選ぶことができない苗字にも様々な時代背景や遊び心が含まれています。
春は新しい出会いが多い季節でもあります。
見慣れない苗字と出会う機会がありました際には、想像力をフルに働かせつつ、新しい出会いを楽しんでみてはいかがでしょうか。
関連記事:
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/