ある本を久しぶりに手に取った。
紙は薄っすらと黄ばんでいて過ぎた年月を感じさせた。
ページを捲った時にほのかに鼻をかすめた紙の香りは、
一瞬だけ、今の私を切ない気持ちにさせたような気がした。
本の中に新しい空気を送り込むような気持ちでパラパラパラッと空気をページになじませると、
はらりと一枚の薄青色をした紙が床に落ちた。
向こう側が透けてみえるくらい薄い、エアメール用の便箋だ。
いくつかある心当たりにドキドキしなら開いてみると、
高校時代にできたペンフレンドからの手紙だった。
当時の修学旅行で訪れたディズニーランド。
仲の良い友人グループで色々な乗り物を満喫していた。
偶然だか、必然だったのか、私には分からないけれど
行く先々で顔を合わせる外国人の学生グループがあった。
その中の一人が、後にエアメールのやり取りをすることになる彼だった。
グループ同士、互いに覚束ない英語と覚束ない日本語を駆使しながら
会話といくつかの乗り物を楽しんで別れた。
その後、私たちが集合場所に戻ると彼らの学校の集合場所と隣り合わせだったのだ。
すると、彼らの数名が教師と一緒に私たちの元へ近づいてきた。
何ごとかと私たちの担任と英語教師が間に割って入り、
国を越えた教師同士のミーティングが始まった。
しばらくして、担任教師から、彼らがエアメールのやり取りをしたいと言っているけれどどうする?
伝えられた私たちは、その申し出を受けることにした。
私たち側に相手を選ぶ権利がなかったのはどういうことかしら?
と今なら少し思うけれど、今思えば、性格の似た者同士が相手になっていたように思う。
それから私は7年程、緩いペースでのやり取りが続いた。
良かったのか、悪かったのか、恋心は全く芽生えなかったけれど
とても紳士的な彼で、様々なジャンルの話をしたことが懐かしい。
私は古いものを残しておくことをしないため、
手紙は手元には残っていないと思っていたのだけれど、
その時の手紙が一枚だけ、久しぶりに手に取った本の間に残っていたようだ。
手紙を読み返しながら、懐かしいという気持ちと一緒に、
彼の夢が叶っているといいのだけれど、と思いかけて止めた。
それよりも、笑顔で過ごしてくれていることの方が嬉しい。
結局この日は、気持ちが手紙に引っ張られてしまい
手にした本を読むことはできなかったけれど、
大きな時間旅行をしたような、そのような日となった。
私は今も何かと海外との繋がりがあるけれど、
もしかしたら、このペンフレンドから始まったのかもしれない。
人との出会いには様々な未来が詰まっている。
相手が家族であれ、友人であれ、同僚であれ、上司であれ、仲間であれ、
それが例え、一期一会であったとしても。
ここへ足を運んで下さっている皆さん、
本日もお付き合いいただき、ありがとうございます。