偶然立ち寄ったアンテナショップ内で、隈取(くまどり)をモチーフにしたキャンディーを見つけた。
隈取(くまどり)とは、歌舞伎で使われているお化粧のことで、顔を白く塗った上から、赤、青、茶、黒といった色を使ってデザインされているのだけれど、
隈取(くまどり)は単なるデザインではなく、このお化粧を見るだけでも、その人物が物語の中でどのような役割なのか、どのような感情を抱いているのかが分かるようになっているのだ。
「単なるデザイン」というような表現を使ってしまったけれど、デザインそのものも優れているため、様々な商品アイデアに使われていたりもする。
その日私が見つけた、金太郎飴をカットしたような隈取(くまどり)キャンディーなどは、手頃な価格で日本らしさを持ち帰ることができるため、外国人観光客からの人気も高いのではないだろうかと想像したりする。
私自身、非常にベタではあるのだけれど、この手のキャンディーを幾度となく贈り物に利用させていただいたのだけれど、
繊細さとダイナミックさを兼ね備えた隈取(くまどり)に興味を抱く方、面白がる方が多かったように思う。
歌舞伎と聞いて私が思い出すことの一つに、「一所懸命(いっしょけんめい)」という言葉がある。
よく「一生懸命(いっしょうけんめい)」と「一所懸命(いっしょけんめい)」の違いは何か、どちらが正しいのか、といった話を見聞きするのだけれど、この言葉からも少しだけ歌舞伎に触れることができるのだ。
今回は、そのようなお話をと思っております。
ご興味ありましたら、ちらりとのぞいていって下さいませ。
「一生懸命」と「一所懸命」はどちらも間違ってはいないのですが、新聞や雑誌などでは「一生懸命」に統一していることが多いので、迷ったときには「一生懸命」を使うと良いかと思います。
ただ、本来の意味としてどちらも同じなのかと言えば、違いがあります。
もともと「一所懸命」は、武士がご褒美などで頂いた土地や領土を命懸けで守ることを意味していたと言います。
頂いた土地や領土である、その一か所(=自分の領地)に対しての想いが込められているので「一所懸命」だったのだそう。
これが時代を経る中で、様々なものごとに対して命を懸けて、力の限り、と言った意味合いが含まれるようなり「一所」だけでなく「一生」という使い分けのようなものが生まれ、両方の言葉が同じ様な意味で使われ始めたのだとか。
このような状況を思えば、最初から存在していた「一所懸命」が正しく、後に生まれた「一生懸命」は間違いという認識も理解できるのですが、
「一所」よりも「一生」の方が表現したい気持ちを伝えやすい、分かり易い、感覚として理解できるなどと感じて使う人が増えたことから、
間違いだった「一生懸命」が市民権を得て、現在は「一生懸命(いっしょうけんめい)」がメイン使いされているようです。
ただ、例外もあり、歌舞伎の世界では「一所懸命」が使われていると言います。
歌舞伎好きの知人の話によると、歌舞伎世界では先祖代々受け継いできた屋号を守り続けていくという使命があります。
このことが、一か所を命を懸けて守り続けていくことに重なることから、歌舞伎世界では「一所懸命(いっしょけんめい)」が使われているようです。
この言葉を万人に対して使いたいのであれば「一生懸命」を使い、
命懸けで、自分の一生をかけてという思いを表現するために使う場合は「一生懸命」を、
一カ所を守りぬくという思いを表現したいのであれば「一所懸命」を使う、
と覚えておくと、使い分けや正誤で迷うことはないのではないかと思います。
歌舞伎役者の方々のご挨拶などの中で「一所懸命」を耳にする機会がありました際には、そこに込められている立場や思いにも触れてみてはいかがでしょうか。
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