先日、手元に残しておきたい書籍の仕分けをしていたのだけれど、そろそろ手放してもいいのかもしれないと思った1冊に、フランス語で書かれたレシピ本があった。
内容は全く読めないに等しく、その料理を再現するには翻訳機か辞書片手に頑張る必要があるのだけれど、本内で使用している食器は美しく、使い方も素敵なものだから、目の保養にと手元に置いていたものだ。
この日は、最後の見納めにと冷蔵庫内に転がっていたカボスで作ったカボスサワー片手にページを捲った。
自分の盛り付けやテーブルセッティングのベースになっているそれらが多数目に入り、この1冊は私の中で知識や知恵に変わったように思った。
たくさんのことを楽しく学ばせていただいた1冊から卒業するような気分である。
ページを感慨深く捲っていると、「amour(愛)」という単語が目に留まった。
そこには「ポム・ダムール(愛のリンゴ)」とあった。
しかし、メニューはトマトを使ったものである。
調べてみたところ、フランスには「ポム・ダムール(愛のリンゴ)」というトマトの異名があるという。
フランス人らしいと思いながら、近隣諸国が持つトマトの異名を調べてみると、イタリアでは私たちも聞き慣れている「ポモドーロ」がそれだと分かった。
ポモドーロと聞けばトマトソースが頭に浮かぶけれど、言葉の意味は「黄金のリンゴ」なのだそう。
更に、ドイツでは「天国のリンゴ」というのがトマトの異名だという。
どのお国も、何だかとても艶めいた名付けだったものだから繊細な日本人の感性では、何と?と期待に胸を膨らませ調べてみると、「赤茄子(あかなす)」だというではないか。
赤茄子……ね。
私の期待からは大きく外れていた名を前に、カボスサワーをごくごくと喉奥へと流し込んだ。
気を取り直して、トマトの歴史の入り口辺りを軽くのぞいてみると、日本には江戸時代にオランダから伝わっていた。
ミニトマトほどの大きさのもので、色は私たちが知るトマトのような艶やかで鮮やかな赤色をしていたようだけれど、当時の人々には、その鮮やかな赤色が毒々しく映ったようで、鑑賞用として楽しまれていたという。
食用に栽培されてからも日本人の口には合わず、品種改良や加工を重ねられ、トマトケチャップとして漸く日本でも広く受け入れられるようになったそうだ。
トマトには何の非もないのだけれど、初めて目にするものに対して、人が持つ動物的な勘が働いたのだろう。
ヨーロッパ辺りでもトマトが伝わってきた当時は、口にするものとしては警戒され「悪魔の実」という名が付けられたり、鑑賞用が主な楽しみ方だったという。
真っ赤で艶々としたトマトや、トマトソースの赤を見て美味しそうと感じられるのは、一つずつ重ねられたトマトの歴史があるからのようで、トマトに対して苦手意識がある方は、もしかしたら人が持つ動物的な勘のようなものが働いているのかもしれない、と思ったりもする。
我が家の冷蔵庫にも、真っ赤なトマトが入っている。
トマトの冷製パスタもいいし、ソテーした白身魚にトマトなどの夏野菜をたっぷり使ったソースをかけるのもアリだ。
いやいや、そんなに手を加えずにトマトサラダでいただくか。
想像は膨らみ、トマトの楽しみ無限大である。
それにしても、愛のリンゴ、黄金のリンゴ、天国のリンゴという名、どれも魅惑的である。
それらとは対照的な赤茄子。
先人たちのネーミングセンスには一目置いていたのだけれど、もっと洒落た名は無かったのだろうかと思ってしまったのは、ここだけの話である。
トマトメニューを召し上がる機会がありました折には、お好きな異名をちらりと思い出しつつトマトをご堪能いただけましたら幸いです。
本日も、最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございます。
お天気に関わらず水分補給を忘れずに、口角上げてまいりましょうね☆彡
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