気分転換に普段使わない道を通ることにした。
前回通ったときは、ストールを首にグルグルと巻き厚手のアウターを着ていたから、随分と久しぶりだ。
知っている場所ではあるのだけれど何かが違うと感じ、辺りを見回しながら歩いていると、いくつかの建物が取り壊されて見晴らしの良い空き地になっていることに気が付いた。
雑草の生命力か、人が運び込んだものなのかは分からないけれど、空き地の地面は緑色の葉で覆われ、赤い実が至る所に点在していた。
一見するとワイルドベリーのようにも見えたけれど、赤い実のビー玉のような丸みから、全てがヘビイチゴだと分かった。
ヘビイチゴ、強い生命力を持ったバラ科の雑草で至る所に自生しており、4月から梅雨前辺りに花を咲かせ、丸くて赤い実を付ける。
クローバーのような葉とインパクトがある赤い実のビジュアルからくる可愛らしさに魅了される方も多いそうで、
観賞用に育てている方や、自宅のお庭のグランドカバーとして育てている方が増えていると、以前、花屋の店主に聞いたことがある。
その可愛らしい見た目に反し、ヘビイチゴという気味が悪い名を持っている植物だけれど、名前の語源は諸説あるという。
私の記憶の片隅に残っていたものは、ヘビが食べるイチゴだからというものなのだけれど、他にも、ヘビイチゴは、ヘビが出てきそうな場所に自生しているからだとか、この赤い実に引き寄せられた小さな動物をヘビが捕らえるからなど、諸説あるという。
そして、異名であるドクイチゴという名に使われている「毒」だけれど、ヘビイチゴは無毒である。
無毒にも関わらず毒があると言われている理由は、よく分かっていないのだそうだ。
これは語源ではないのだけれど、私の記憶にはこのようなシーンが残っている。
子どもの頃に読んだ絵本か何かにヘビが登場するシーンがあった。
タイトルも作者も忘れてしまったけれど、その物語の中に登場したヘビは、自分の体よりも大きな人間を丸のみしたのだ。
満腹になったはいいけれど、人間のカタチにまで膨れてしまった体では思う様にうごくことができないヘビは、体型をもとに戻すため、
ヘビが食べたものを素早く消化させることができるヘビイチゴが生えている場所まで行き、ヘビイチゴを口にするのだ。
すると、みるみるうちに胃袋の中の人間が溶け(消化され)、ヘビは次の獲物を探しに行った。
そのようなシーンだった。
私は、このシーンの衝撃が強かったのだろう。
ヘビイチゴを見ると、「触れてはいけない植物」というような印象を未だに抱いてしまっている。
ただ、あの緑と赤のコントラストといい、赤い実をつける前の黄色い花の可憐さといい、葉と実のフォルムといい、ビジュアルは本当に可愛らしいのである。
観葉植物としての人気も地面を覆うグランドカバーとしての人気も頷ける。
その日は、いつの間にかできていた空き地地面を覆うヘビイチゴを目にしたけれど、ちょっとしたメルヘンワールドを思わせる雰囲気さえあったように思う。
しかし、花言葉は小悪魔のような魅力であり、毒がないのにドクイチゴの名だ。
何か隠し技の一つや二つ持ち合わせているのではないだろうか、そのような憶測を胸に抱かせる植物である。
見上げる空が心地よい季節でもありますが、足元にも初夏の色が。
いつもの風景の中にある季節の変化を感じてみてはいかがでしょうか。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/