お店の前に置かれていた寄せ植えの鉢に視線を落とすと、南天の実が真っ赤に色づいていた。
赤く染まっていく南天を目にする度に、すぐそこまで来ている本格的な冬の気配を感じるのも毎年のことだ。
南天は、5月から6月ごろに可愛らしい白い花を咲かせた後に実をつける。
この実は、時間をかけて少しずつ色づき、秋から冬の時期になると人目を惹く鮮やかな赤色に染まる。
南天という名が「難を転ずる」という意味を連想させることから、平安時代から縁起物として愛され、戦国武将たちからも好まれていたと言う。
時代が変わっても鬼門除けとして柊の木と合わせて敷地内に植えられたり、南天と福寿草を合わせることで「難を転じて福となす」に通ずとされるなどして、お正月飾りとしても人気の植物だ。
あまりにも身近にある植物すぎて、その実が赤く色づくまで空気のような存在として扱われがちな南天だけれども、
災厄除け、魔除け、招福の木として、日本人の生活を長い間、見守り続けている木のひとつだ。
私の実家にも南天が植えてあったため、子どもの頃から南天の葉を摘み取りに庭へ出ていた。
摘み取った葉は、よく洗った後、水気を取り除く。
「取り除く」と言えば丁寧な動作を思い浮かべてしまうけれど、実際は、手首のスナップを効かせてキッチンで豪快にしずくを振り払うだけ。
その南天の葉をお刺身の飾りつけや、来客時にお出しする和菓子に添えるなどして使っていた。
初夏の南天の葉は青々としていて瑞々しく、秋以降の葉は赤く色づいていて、四季折々の和菓子の世界観とも合っていたように思う。
玄関のお花を切らしているときなどは、赤い実と一緒に生けるだけで玄関が華やぐため、日常の中の様々なシーンのお助けアイテムとしても重宝していた。
食べ物の盛り付けのアクセントに南天の葉を使うことに馴染みはあったけれど、南天の葉が持っている効果を知ったのは、随分と大人になってからだった。
本人に確かめたことはないけれど、母もそのことは知らぬまま、使っていたに違いない。
いつだったか、お赤飯に添えられている葉っぱが南天の葉だと気づいたとき、単純に厄除けを兼ねているのだと思っていた。
もちろん、そのような意味合いも無いわけではないらしいのだけれど、南天の葉には食べ物が腐るのを防ぐ成分が含まれているのだとか。
見た目の美しさと実用性を兼ねた南天の葉の使い道に日本人らしさを感じることができたのは、私自身が大人になっていたからだろう。
南天の木を知らないという方も、南天をひと目見れば、「あぁ、この木。この赤い実。」と思うはず。
艶やかな赤を楽しみながら難を転じて福となす。
今年の年末年始のお飾りに、南天を加えてみてはいかがでしょうか。
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