とあるビルのフロアの一角で電話を済ませたついでに
スマートフォンを覗き込んでメールチェックをしていた時のこと。
少し離れた所から師弟関係のようにも見える
年の離れた男性2人がこちらへ向かって歩いてきた。
一人は白髪混じりで恰幅の良い60代くらいの男性。
もう一人は、細身で猫背気味な歩き方が印象的な20代後半くらいの男性だった。
しんと静まり返っているフロアに彼らの革靴の音がコツン、コツンと響く。
2人が近づいてくるにつれて彼らが発する専門用語の所々が私の耳に届いた。
そして、私の目の前を通り過ぎる時、
猫背気味な歩き方の彼が
師匠(であるかのような男性)に「是非、ご教授ください」と発した。
会話の内容は私には推測すらできなかったけれど、
久々に生で耳にした「ご教授ください」の言葉から
彼の熱意や敬意がひしひしと感じられた。
私は彼らとは何の関係もなく、
偶然その場に、このような距離間で居合わせただけなのだけれども
私まで背筋がすーっと伸びたような気がして、
少しの間、覗き込んでいたスマートフォン画面の内容が全く頭の中に入ってこなかった。
しばらくして、猫背気味の彼が「ご教示」ではなく「ご教授」の言葉を使ったこと、
そして、あのビルがある専門分野を扱うことに特化した場所であったことから
師匠(であるかのような男性)は高度な専門的技術や知識をお持ちの方だったのだろうと
再びこの時の光景を思い出していた。
「ご教授ください」と「ご教示ください」。
意味も響きも似た言い回しなので実際に使おうとした時、
ふと、どちらを使おうかしら?どちらだったかしら?と思われる事があるかと思います。
今回は、この使い分けを覗いていませんか?
両方とも、何かを教えていただく際に使う言葉ですが、
「ご教授ください」と言って教えていただく内容は、
高度な専門技術や技能、知識、学問や芸術や芸事です。
例えば、傘職人になるべく弟子入りする時や、
専門知識を得るために指導していただくシーンなどでは「ご教授」という言葉を使います。
「ご教授」は教授と付くくらいですから「専門分野」と覚えておくといいかもしれません。
一方、「ご教示ください」は「教えてください」を更に丁寧な言葉で表現しています。
ですから、礼節を重んじるシチュエーションや、
まだ互いに知り合って日が浅い間柄でお願いをする場合などは、
「ご教示」を使います。
一般的な会話やメール、お手紙等で「ご教授ください」を使う機会は
滅多にないように思いますので
どちらを使うか迷われた際には、
「ご教示ください」を使う方が無難だと覚えておいても良いのではないでしょうか。
時代と共に目上の方との距離感も近くなってきておりますし、
フレンドリーさを良しとする風潮も無きにしも非ずです。
だけれども、相手を問わず敬意を示すべき瞬間や、
礼儀を示すべきシチュエーションというものはあるものです。
そのような時に、サラリと大人の余裕を言葉で表現するのも
乙なものではないでしょうか。