ショッピングモール内にあるベンチに腰掛けて、荷物をコンパクトにまとめていた時のこと。
隣りの方から、ガリッゴリッと場にそぐわぬ音が聞こえた気がした。
ゆっくりと視線を向けると、お婆ちゃんがちょこんと一人で座っていた。
音の出所分からぬまま、私は再び荷物をまとめ始めた。
しばらくして、今度はガリッゴリッという音と共に甘い香りが漂ってきた。
その甘い香りが飴だということは直ぐに分かった。
音のする方へ視線を向けると、
隣のお婆ちゃんの手には、黄金色をした、
おはじきのような形の飴が入った袋が握られていた。
食事の仕方を注意深く観察してみると、
その人の性格や生まれ育った環境が分かると言うけれど、
飴の舐め方ひとつをとってみても、その人の性格であったり、
そのときの心理状況が表れていると言われている。
一般的に飴というお菓子は、飴がゆっくりと口の中で溶けていく過程を味と共に楽しむもの。
だけれども、その楽しみ方は人それぞれで、
飴をカリントウのようにバリバリッと音を立てて噛んでしまう方もいれば、
途中まで舐めて程よい所でカリッと噛む方、
口の中から消える最後の一瞬まできれいに舐めきる方といる。
飴を口に入れてすぐに噛み砕く方は、ストレスや不満、プレッシャーや不安があり、
飴のように歯ごたえのあるものを噛み砕くことでイライラを解消したり、
気持ちや脳を落ち着かせようとしている場合があると言う。
と同時に、性格がせっかちな方や、人の意見に左右されることなく自分の考えを持っている方も、
飴を噛み砕く傾向があると言われている。
また、もうすぐ舐めきることができるという状況になってから噛んでしまう方は、
忍耐力が弱い傾向にあるのだとか。
飴くらい自由に食べさてくれていいのではないかしら?と思ってしまうくらい
「飴を噛み砕く」という行為はネガティブなイメージが先行しているけれど、
飴を噛み砕くときに出る力は、体中の筋力を一瞬グッと上げる効果があると聞く。
何か普段以上の力を出したいときや、出そうとしたときに、気付けば歯をくいしばっていた、
というような状態に似た状態を作り出しているのだという。
日常生活で、普段よりも気合を入れたい時に飴をひと噛みするのも
一つの手、と言えるのかもしれない。
ただ、「人が飴を噛み砕いている音は、耳障りの良い音ではない」と感じる方は意外と多い。
噛み砕くタイミングや場所を間違わないよう、気を付ける必要がありそうだ。
ショッピングモールのベンチに居合わせたとても穏やかそうなお婆ちゃんはと言うと、
その後も、まるでカリントウでも食べているかのような勢いで飴を噛み砕いていた。
私はお婆ちゃんのことを、飴が好きで丈夫な歯をお持ちなのね、くらいに思っていたのだけれど、
ご主人であろう、お爺ちゃんの登場でその場の空気が一変し、驚くこととなった。
「あなたがデートでもしてみようって言うから出てきたのに、いつまで待たせるんですか。」
と穏やかそうに見えたお婆ちゃんが声を荒げたのだ。
「ごめん、ごめん」の後に言葉が続かず口ごもるお爺ちゃん。
まさかの展開に私の手も一瞬止まってしまった。
だけれども、お婆ちゃんの口から出た「デート」という言葉が可愛らしくて、可愛らしくて、
お爺ちゃんには申し訳ないと思いつつ、微笑ましいなと思った。
何とかお婆ちゃんのイライラも収まり、2人はその場から去って行ったけれど、
「イライラを収める為に飴を噛み砕く」、確かにあるのだな。
生きた実験結果を得たような気分で私もその場を後にした。
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