いつもビシッとハイヒールでキメてくる友人が、
ローヒールのサンダルで待ち合わせ場所に現れた。
「(普段とは違う雰囲気だけれども、こういう雰囲気も似合ってる。)」
そのようなことを思いつつも妙な違和感を感じた私は、
違和感の原因が気になり、もう一度だけ彼女の足元へと視線を落とした。
「え!どうしたの?大丈夫?」
足の小指にぐるぐると巻かれた白い包帯を目に、思わず声が上擦った。
リビングを掃除している最中にキャビネットの角に足の指をぶつけ、
放置していたら驚くほどに腫れ上がってしまい病院のお世話になったのだとか。
不幸中の幸い、骨に異常はなく、小指の腫れがひくのを待っているところだという。
ほっとしている私を他所に、
「それが、お医者さんが失礼で……」と友人は移動しながら話を続けた。
医師から、どうされました?とお決まりの会話のボールをキャッチした友人は、
「うっかり足の小指をキャビネットにぶつけて……」と返球したのだそう。
すると、それに対して医師から返された言葉は、
「うっかりじゃなくて、老化現象の一種なんですけどね」というフレーズから始まったという。
友人は、「老化」という言葉にもやっとしながらも、
医師の説明がとても的確で分かりやすく、
「老化」の意味も腑に落ちたことが、何だか悔しいのだと言っていた。
私たちの体には身体感覚と固有感覚という2つの感覚があり、
この2つの感覚を使って自分の体が今どういう位置にあり、どのように動いているか、
という情報を脳に送り続けていることで安全に動くことができているという。
この2つの感覚は、加齢によっても衰えるものらしく、
感覚が衰えてくると、脳は自分の体の位置や動きをを正しく認識できなくなり、
結果、小指や体を様々なところにぶつけるのだそう。
そして、「加齢による老化」で片付けてしまいそうになるけれど、
実はこの感覚、普段の体の使い方の癖などによってもズレてくることがあると言う。
例えば、目を閉じた状態で誰かに足の指に触れてもらい、
触れられている指を当てるゲームをしたことはないだろうか。
年齢を問わず人差し指に触れられているのに、
本人は中指のように感じたり、薬指に感じたりする人が、実は多いのだそう。
このようなゲームからも分かるように、
普段の体の使い方の癖などから生じた感覚のズレや老化によって生じたズレが、
小指を家具の角にぶつける原因なのだ。
改善方法として一般的に知られているのは、
入浴時に湯船の中で足の小指から順番に1本ずつ手で摘み、
グルグルと回したり、前後に倒したりして、動かすこと。
こうすることで、小指やその他の指の末端の感覚が蘇り、
自分の小指がどの位置にあり、どのような動きをしているのか把握でき、
脳へ正しい信号が送られるようになると言う。
正しい信号が送られれば、足の指をキャビネットの角などにぶつけることなく、
体も正しく動くことができるようになるという仕組みだ。
その日は、友人の身に起きたこのような2つので出来事を聞いていた。
医師と言う職業柄なのだろう。
会話に無駄がないというのか、
最短コースで結論に達する話し方をする方が多い気はするけれど、
悪気はないと思うのだ。
しかし、友人の小さな怒りの炎は地味に燻っているようだった。
皆さんも時々、足の指をグルグルマッサージをして
感覚メンテナンスをしてみてはいかがでしょうか?