飲み物が運ばれてくるのを待っていると、
「「カンパーイ」」とあちらこちらのテーブルから聞こえてきた。
どのテーブルからも、肩の力がふっと抜けたような穏やかな空気が感じられ、
その空気は、こちらまで伝染してくるようだった。
世界各国に乾杯は存在するけれど、
グラスとグラスを軽くぶつけ合ってする少々荒いこの乾杯は、日本独自のものだ。
外国の方と交流をすると7、8割ほどの方が、どうして日本人はグラスをぶつけ合うのか?と聞いてくる。
※この7、8割というのは、私が個人的に感じている割合ですのでご注意を……。
そして決まって、このようなことを付け足すのだ。
グラスが割れそうじゃない。
グラスの中身が飛び出してお洋服やテーブル、床が汚れてしまうじゃない。
素敵なグラスを傷つけたらどうするの?
中には日本での乾杯を教えてと尋ねられて答えたら、
私が決めた乾杯ルールではないのだけれど、
ガチャンと音を立てるなんて品が無くてできないわ、と呆れ顔で言われたことも。
人の感じ方は十人十色で、違っていることの方が自然なことだと腑に落ちたのは、
もしかしたら、あの頃だったのかもしれない。
そして、私にとっての常識を様々な角度から刺激してもらったものだから、
どうしてグラスとグラスをぶつけ合って乾杯するのだろう?と、
私自身も素朴な疑問を抱くようになった。
「乾杯」そのものは、古代ヨーロッパ時代にまで遡る。
当時、神様や死者のためにお神酒を飲んだ宗教的儀式があり、
これが「乾杯」の起源だと言われている。
宗教的な儀式が、いつの間にか人々の健康を願ったり、成功や幸せを祝うものに変化したという。そして、更に変化の中にあるのだろう。
現在では、お祝い席やスペシャルな席で祝すための「乾杯」だけではなく、
その時々の頑張りを労い合う意味での「乾杯」も交わされるようになっている。
じゃぁ、どうしてグラスとグラスをぶつけ合うのか。
この辺りは諸説あるようなのですが、よく見聞きするのは、
ヨーロッパではお酒の中に悪魔が住んでいると言われていた時代があり、
当時は、この悪魔を祓うためにグラスを軽く合わせて音を出し、
お酒に住む悪魔を祓っていたので、そのような習慣がベースに残っているというものや、
グラスを激しくぶつけ合うと、お互いのグラスにお酒が飛び入ることあるけれど、
その状態になってもグラスの中身を飲むことができるということは、
お互いのグラスに毒を盛っていないという証明になり、互いを信頼することができる。というもの。
日本の場合は、この信頼関係を築くための乾杯が有力視されているように感じます。
そして、私たちが使っている「乾杯」という言葉は、
中国で使われている「乾杯」という言葉をいただいたそうなのだけれども、
「乾杯」の掛け声とともにグラスをぶつけ合い、
少しだけ口をグラスに付けるところで乾杯をひと区切りとする日本とは異なり、
本場中国では「杯を乾かす」ところが乾杯のゴール。
グラスの中身を全て飲み干すまで乾杯は終わりません。
お酒を飲む機会が増えてくる季節ですが、
お酒を飲むとどうしても酔っぱらってしまうという方は、
お酒の中に住む悪魔を祓えていないのかも。
手強い悪魔でないことを願いますが、
お酒の中に住む悪魔を乾杯で祓ってみてはいかがでしょうか。
そのような乾杯エピソードをちらり、ちらりと思い出していた私のもとにも飲み物が運ばれ、
しっかりと乾杯を交わしたある日の夜でございます。
皆さんも、お好きなお飲み物でココロほぐれる乾杯を!!
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