小腹が空き、あり合わせのもので作ったエビペーストをひと口サイズのパンに塗り、
それを揚げていると、リビングから着信音が聞こえた。
あまり褒められた行動ではないけれど、揚げ物中……と思いつつも、
菜箸片手にリビングへ走り、もう片方の手でスマートフォンを取り上げてキッチンへ戻った。
着信音の相手は、お互いに時間が合わず、1年ほど会えないままでいる友人からだった。
私がモタモタしていたからか、
仕事中だったか!?と気を利かせた彼女が早々に電話を切ったのか、
“通話”に触れる前に着信音がピタリと止まった。
エビパンをひっくり返しながら掛けなおすと、「ごめん、用事はない」と友人。
久しぶり過ぎて何だか照れる、と言う私に、
電話越しに大笑いしながら、あなたの彼氏じゃないからと突っ込んできた。
一人で何役もこなす彼女は以前からパワフルだったけれど、
その声のトーンから、相変わらずであることが伝わってきた。
他愛ないことを話しながら小腹も満たし、
彼女の話を聞いていると、最近不思議に思うことがあると切り出した。
彼女が言うには、街中で様々な職種の方にお世話になることがあると。
挙げればきりがないけれど、とにかく多くの人たちに関わっている中で、最近、
この人は大丈夫かな?と思ってしまうような、
若手担当者に当たることが増えたけれど、何か採用基準が変わったのだろうか、と言うのだ。
そう話す彼女の顔は見えずにいたけれど、真顔で真剣にそう思っていることが分かった。
彼女は気付いていないのだと思った私は、真実を口にすることを少しだけ躊躇った。
あまりにも純粋な雰囲気で言うものだから、敢えて口調と言葉を選び、
「あのですね……、大変申し上げにくいのですけれど……、
わたくしたち、年を重ねてきておりまして、あなたも私も大人レディなのですよ」言ってみた。
すると、「えっ!!!」と言葉を詰まらせ、「年を取ったということだ!」と続け、笑い出した。
「取った」ではなくて「重ねた」の方が気持ちが軽やかな気がすると言う私に、
そうだねと言いながら「年を重ねた」と何度も言い直す彼女からは、
若干の驚きと戸惑いの気持ちが見え隠れしていた。
私は高校野球を観戦することがあるのだけれど、
いつだったか、出場選手たちが妙に子どもっぽく見えた瞬間があった。
今年の選手たちはどうしたのだろうと思った瞬間、ハッとしたのだ。
そして、その時、静かに様々な思いを噛み締めた記憶がある。
誰もが気付き通る道で、だから“どうだ、こうだ”という話ではないのだけれど、
確かに、ちょっとハッとするよねと交わした、ある日の午後だ。
目の前の景色が静かに大きく変わる瞬間がある。
同じ景色が全くの別世界に見えることがある。
それはきっと、次のステージへステップアップした印だ、私はそう思っている。
少し冷えたエビパンを口に運びながら、そのようなことを思った。
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