ポン酢の栓開けに悪戦苦闘していたら、
「ポン酢のポンってなんぞや?」と尋ねられた日のことを思い出した。
お世話になっていた外国人家族に日本料理を食べたいと言われ、
日本食を振舞うことになったときのことだ。
せっかくだから調理をするところから見たいと言われ、
調理過程なんて、どこの国も似たり寄ったりだと思うと言ってみたのだけれど
引き下がる気配がない知人家族のリクエストに応える運びとなった。
野菜の皮の剥き方やカットの仕方は日本人も同じなのね、と少々退屈そうに言われ、
「だから言ったじゃない」と心の中で突っ込みながら調理をすすめた。
先日もテレビで、一人の外国人男性が小籠包を日本料理だと思っており、
小籠包を学ぶために単独日本へやってきたと話すシーンがあった。
これほど情報化が進んでいても日本料理と中華料理の区別は難しいのだ。
きっと、私たちがメニューによっては、
「洋食」というワードによって、ひとまとめにしてしまうことと、大差はないように思う。
そのようなことからも察するに、知人家族も、
中華料理などで目にするアクロバティックな包丁捌きでも期待していたのかもしれない。
何も飛び出しそうもない気配を察してか、
途中から調理の様子に完全に飽きてしまった彼らは、我が家の冷蔵庫を開け、
日本食ならではの調味料に興味を示し始めた。
その中で彼らが特に興味を示したものは、
私が、外国で手に入れられるものを使って作っていた自家製ポン酢だった。
料理好きのマダムは、私が伝えたレシピをメモし終えると、
もう一度、日本語の調味料名を教えてと言った。
「ポン酢、ポ・ン・ズ」と言うと、ペンを走らせながら「そのポンって何?」と人生初の質問を受けることになった。
私が物心ついたときからポン酢はポン酢だった。それだけで十分じゃない?と答えると、
「知らないのね、あぁ……残念」と呟きながら首を横に振った。
きっと、あなたの国にもポン酢のように、
名前を深追いすることなく使い続けている調味料の1つや、2つ、あるでしょう。
と言いかけて止めた私は、後日、「ポン」について調べていた。
ポン酢のポンはオランダ語のポンス(pons)という言葉がもとになっていた。
ポンス(pons)は、柑橘果汁全般を表す言葉であるのと同時に
アルコールで作られるカクテルなども表す言葉だった。
この言葉は、江戸時代に柑橘果汁と共にオランダから日本に入ってきたようなのだけれども、
それまでの日本では柑橘果汁を飲む習慣がなかったため、
柑橘果汁は、日本人が口にしやすいように醤油やお酢などを加え、ポン酢醤油として広まったと言います。
偶然にも、ポン酢醤油にはお酢が加えられており、ポンス(pons)の「ス」と発音が被ることから、
「ポン酢(ポンズ)」という表記、呼び方になったようだ。
当時、このようなことを調べはしたものの、改めて伝える必要性を感じなかったのか、
単純に英語で説明することを億劫に感じたのかは忘れてしまったけれど伝えぬまま、
そのようなことを調べたことさえも忘れて過ごしていた。
知人家族は、ポン酢は、フィッシュアンドチップスをヘルシーに食べるのにちょうど良いと言っていたけれど、今もまだ使っているのだろうか。
それとも日本食も海外でブームになりホームメイドしなくても簡単に購入できるようになっただろうか。
そのようなことを思いながら、ポン酢にジャバラ果汁を足し、花粉症対策ポン酢に仕上げた。
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