無性に焼き鳥を欲した。
冷蔵庫をのぞいてみたところ、ひと通りの食材が揃っていたため、せっせと串打ちをはじめた。
以前は、竹串を使っていたのだけれど焦がしてしまうことがあるため、最近はBBQ用のステンレス串を使うようになった。
これが思いの外使いやすく、どうして早くこれに切り替えなかったのだろうかと思う。
竹串不要というほどの潔さには達していないけれど、自宅メニューであればステンレス串で十分である。
梅干しを刻んでワサビや、その他の調味料で味を調えた梅ワサビだれと、甘辛いたれを準備した。
もう一種類は、塩コショウにするか柚子胡椒にするか。
これはギリギリまで悩むことにして、気分転換を兼ねた焼き鳥の仕込みを終えた。
焼き鳥と言えば、串に刺して焼くだけの簡単メニューのようなイメージがあり、居酒屋などでも「とりあえず焼き鳥にしておこうか」というような声をよく耳にするけれど、串打ちは骨が折れる作業である。
そして、絶妙な焼き加減で仕上げられた一本には、素人には分からないような職人技が詰まっているように思う。
それを、楽しいお喋りと共にペロリと平らげてしまうのだけれども、もう少しじっくりと味わってもいいのかもしれないと思ったりもする。
そう思いはするものの、次の機会もやはり目の前の美味しさに促されるままペロリ、を繰り返してしまうのだけれども。
いつだっただろうか。
あるとき、カウンター越しに職人の手捌きを眺めながらふと思ったのだ。
「ウチのタレは創業からの継ぎ足しだから上手いよ」と言うお店がある。
焼き鳥に限らず鰻屋などでも耳にするけれど、そのようなことを聞かされると、長年の旨味が足されまくって、さぞかし美味しいタレなのだろうと想像が勝手に膨らみ、
期待値も、食べる前からぐんぐんと上がっていく不思議な文言であると。
すると、その店の大将が、焼き鳥をリズミカルに返しつつ、タレが入った壺に焼き鳥をドポッと浸しつつ言った。
あの不思議な文言を。
いつもの私であれば、甘辛いタレと炭火の香りに乗せられて期待値右肩上がりだったと思うけれど、その日は先述のようなことを考えていたこともあり、
あのタレは腐らないのだろうかと素朴な疑問を抱いてしまったのだ。
「腐る」だなんて、飲食店で発するのを躊躇ってしまうような言葉だったけれど、気になり続けた結果、素朴な疑問を投げかけてみた。
すると、「大丈夫、腐りゃしないよ」と返ってきた。
理由は、火を通した熱々のものをタレが入った壺に浸すため、壺の中のタレの温度は見た目以上に高温になり、殺菌され続けている状態にあるということだった。
きっと、鰻屋の継ぎ足しタレも同じような状態なのだろう。
長年継ぎ足されてきたタレは、殺菌も十分ということである。
私が引っ越してしまったこともあり、今は気軽に足を運べる距離にないお店なのだけれど、
大将が「ただ、繁盛していないお店の継ぎ足しタレは分からないけど」と茶目っ気たっぷりに言い放ったのが印象的だった。
創業からの継ぎ足しタレは、繁盛店のものを。
創業からの継ぎ足しタレに出会われた際には、ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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