雨がしとしとと降っていたその日、窓を開け放っていると、春を告げる花のひとつ、沈丁花の香りがふわり室内へ舞い込んだ。
目を閉じて、その香りをスーッと吸い込んでいたのだけれど、あっという間に春の香りは姿を消してしまった。
「もう少しだけ」と香りを求めた私はベランダへ出て辺りを見回してみたのだけれど、それらしき植物を見つけることはできなかった。
沈丁花は七里香(しちりこう)という異名を持っている。
これは、沈丁花の香りが七里(約3.5キロ)先くらいまで香ることから付けられたという。
3.5キロ先の沈丁花を目に捉えることはできないけれど、そのくらい離れた場所から届いた香りだったのだとしたら、贈り主は不明だけれど、春の素敵な香りのプレゼントである。
沈丁花は私の中で「一筋縄ではいかぬ花」というイメージなのだけれど、
姿を見せぬ状態のまま香りで存在を知らせたかと思えば、潔いほどにあっさりと香りを消してしまうところもまた、そのようなイメージを強くする要因のひとつのように思う。
そう言えば、「春に三日の晴れ無し」ということわざがある。
春は晴れ間が続かない様子を表しているのだけれど、確かに、春を感じることが増えるにつれ、お天気が揺らぐことが増えるような気がしている。
お天気が安定しない時季だからなのだろう。
意識がお天気ニュースに向くことが多く、私は毎年そこで「春に三日の晴れ無し」と見聞きしているように思う。
通常、日本列島の上空が高気圧に覆われ続けると晴れの日が続くそうなのだけれども、
この時季の日本列島の上空は強い偏西風が吹いているため、高気圧や低気圧がどんどん移動していくのだとか。
この、気圧の移り変わりの激しさがお天気を不安定にしており、「春に三日の晴れ無し」と言われているという。
雨が降る日は視界がどんよりと曇り、気持ちまで沈んでしまうようなこともあるけれど、
私は、冬の雨とは異なる、温かみを帯びた優しい春の雨は割と好きだ。
草木や花といった植物たちに栄養を与えてくれる、大切な雨だということもあるけれど、
季節の狭間の諸々で急く私たちの気持ちを、優しくクールダウンさせてくれるようにも感じるし、
雨が降れば花粉が舞うこともなく、フレッシュな空気を吸い放題、といったメリットもある。
「春に三日の晴れ無し」と言われてはおりますが、
雨かぁ……と気落ちしてしまいそうな時には、少し視点を変えて春の雨を楽しんでみてはいかがでしょう。
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