デラウエアが店頭に並び始めると、いよいよ葡萄のシーズンがやってくる、そのような気分になる。
デラウエアは、小粒だけれど甘味が強く、種が無いので食べやすいという理由から、葡萄の定番品種のひとつとして親しまれている。
しかし、国内外の大粒葡萄の品種が増えたことにより消費者の選択肢が増え、ピーク時の生産量と比べると今は半分以下にまで減っているのだとか。
確かに、デラウエアに目が向くのは他の葡萄が店頭に並ぶ少し前のこの時季で、大粒葡萄が並び始めると、意識がそちらに向いてしまう。
そう思うと、目移りすることなくデラウエアのしっかりとした甘みを存分に楽しむことができるのは、この時季なのではないだろうか、そのようなことを思う。
葡萄と言えば、知人がレインボーグレープの種をもらったから育てることにしたと嬉しそうに言っていた。
種が入っていた袋には、ひと房に色鮮やかな葡萄の実が付いている写真が載せられていたという。
あまりにも嬉しそうに話すものだから言いそびれてしまったのだけれど、数年前に話題になったフェイクニュースの葡萄のようだと思った。
フェイクニュースと言ってしまうと様々な誤解が生じてしまうので、ざっくりと種明かしをしておくと、ひと房に色鮮やかな、虹色をした実をつけるレインボーグレープという葡萄は存在しないという。
ただ、葡萄の中には皮の色を変化させながら成長し、房全体が熟す出荷どきには、全ての葡萄の粒が、私たちが知る葡萄色に染まることがあるという。
生産者は、この色鮮やかな成長過程を目にすることはあるけれど、消費者がこの状態を見ることはない。
だから、ひと房に虹のように何種類もの色をした葡萄の実がつくレインボーグレープという名の葡萄の種は存在しないのだけれど、どうしてこのような話が存在しているのか。
それは、色彩をテーマにしたとある写真コンテストに出品された葡萄の写真がSNSで拡散される中、いつの間にか、人が手を加えて仕上げられた写真だということが抜け落ち、
先ほど触れた、葡萄の成長過程で起こる色鮮やかな葡萄の写真と同一種の写真であるかのように広がり、更にレインボーグレープの種というものまで登場したという流れだったと記憶している。
真実の中にフェイクが、フェイクの中に真実が溶けているような話題だったものだから、何となく記憶に残っていたのだけれど、
知人が嬉しそうに話してくれたレインボーグレープの種は、これではないだろうかと脳裏を過ったのである。
しかし、虹色の葡萄は実らないかもしれないけれど、育てた者のみが目にすることができる、葡萄の成長の証である色の変化をワクワクと共に見ることができるのだから、フェイクだなどと野暮なことを言う必要はないだろうという気がして、口を噤んだ。
美味しい葡萄が実りますように、そのようなことを思いながらデザートのデラウエアを洗った夜。
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