雨宿りを兼ねて駅ビル内のショップを転々と見回っていたときのことだ。
とある雑貨店内で多々目にしたのは、ネズミのキャラクターを使った雑貨だった。
そして、そのネズミのそばには必ずと言っていいほど、丸い穴が開けられた三角柱のチーズが描かれていた。
「ネズミの好物はチーズ。『トムとジェリー』の作中でも、そのようなシーンが多数あるじゃないか。」私もそのことに疑問すら感じることなく、常識だと思ってきた一人だ。
しかし、数年前だっただろうか、イギリスのとある研究チームが行った研究実験でネズミはチーズの好物ではないと分かったらしいと、海外に住む知人に教えられた。
そのニュースは、日本でも取り上げられていたため、私自身もニュースを目にして「チーズはネズミの好物である」と思ってきたのは単なる刷り込みだったと改めて確認したのである。
その度に、刷り込みは、刷り込まれたことにも、刷り込みだということにも気が付かないものなのだと、不思議な気持ちもわいた。
このようなニュースに触れると、騙されていたの?と言いたくもなるのだけれど、ネズミ駆除をする方々からすると、チーズはネズミの好物ではないという事実は、割と常識範疇のことなのだとか。
私は偶然にも知人に教えてもらったことがキッカケとなって現実を知ることができたけれど、あの時の会話にこの話題が上がらなければ、チーズはネズミの好物だと今も思っていたに違いない。
しかし、数百年以上もネズミの好物はチーズだと思われてきたのである。
私は、過去にオランダやスイスの古くからあるチーズ工場へ足を運んだことがあるのだけれど、そこで聴いた話の中には、昔は貯蔵庫に保存されていたチーズはネズミにかじられることが多かったため、ネズミ退治のために猫を飼っていたという話もあった。
ただ、これ。チーズは確かにネズミにかじられたりしたようなのだけれど、ネズミの方は自分たちの食料としてチーズをかじっていたのではなく、巣作りの材料調達としてチーズをかじっていたのではないだろうかという見解だという。
そして、ネズミの種類や住んでいる環境によって食の好みに違いもあるそうだけれど、彼らの一番の好物は、昔も今も穀物や木の実類で、強烈なにおいを発するチーズは余程のことがない限り口にしないそうだ。
誰が「ネズミの好物はチーズだ」と断言したのか、未だにはっきりと分かってはいないようだから、きっとこのまま、迷宮入りするのだろうと思う。
人伝えに正しく伝わることは稀だということか、真実ほど伝わりにくいということなのか。
「何気に難しいものね、伝言ゲームって」などと思ったりしながら、満面の笑みで三角チーズを抱きかかえるネズミキャラクターに、そのチーズで巣作り頑張ってねと思う雨宿りであった。
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