幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

自然のことは自然から教えてもらうというコミュニケーション。

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玄関を出た直ぐの場所に立派なカマキリが立っていた。

室内へ入ってこないよう細心の注意を払いながら素早く玄関ドアを閉めた。

人間と昆虫。

体の大きさや力の差は歴然としているけれど、大きなカマを両の手で振り上げているようなポーズでギョロリと見据えられると、表現し難い恐怖を感じてしまう。

この恐怖は、カマキリの、本気で向かう覚悟のようなものを感じ取っているのかもしれない。

よく武道に携わっている方が、合相手と向かい合った瞬間に強さが分かるなどと言っているのを見聞きするけれど、多分、それに似ている。

この日もカマキリに触れる勇気すらない私は、小さな恐怖を胸の奥に忍ばせて、カマキリって近距離くらいなら飛べた?飛べない?どっち?あー、ワカラナイ。

そう思いながら無駄にカマキリとの距離を取りつつエレベーターホールへ向かった。

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カマキリと言えば、秋に卵を産んで冬を越すと言う。

そのことを教えてくれたのは、東北生まれの仕事仲間の一人である。

いつだったか、一緒に仕事場へ向かっていたときのことだ。

今よりもう少しだけ秋が深まった頃だったと記憶しているのだけれど、カマキリの卵だと言ったのだ。

卵と言っても蜂の巣を親指先ほどの大きさに小さくしたようなもので、ひと目に付きにくい姿をしていた。

カマキリの卵がどのような姿をしているのかを知らなかった当時の私は、そう言って指をさされてもどこを見たらいいのか分からなかったほど、辺りの風景に溶け込むように産み付けられていった。

そして、彼女が言ったのだ、カマキリの卵が少し高い場所に産みつけられているから、今年の冬は大雪になるかもね、と。

これは、彼女が子どもの頃におばあ様から教えてもらった言い伝えで、カマキリはその年の積雪量を察知して卵が雪に覆われてしまわない高さに卵を産み付けるため、その産み付けられた位置を見て、雪の量を予測することができるというのだ。

今はどのようなモノゴトも科学的に正解を導き出せてしまう節があるけれど、地域に残るこのような話を聞くと心躍るように思う。

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あの日以降、カマキリの卵を間近で見た記憶はなく、教えてもらった言い伝えを検証する機会は無いけれど、幾度か話題にする機会があった。

その中で、ある友人が言った「雪の中の方が、かまくら効果で温かくて安全に冬を越せるのでは?」という素朴な疑問に深く頷いてしまったのである。

この言い伝えの信憑性ははっきりとしていないようだけれど、彼女のおばあ様が生きてきた時代、土地、当時の気候、そこに住んでいたカマキリ等々、人が様々な要素をもとに導き出した生きるための知恵が、カマキリの卵が産み付けられた位置を見て、雪の量を予測するというものだったのだろうと思う。

人もカマキリも、今に合った生き方をしているのだろうけれど、

自然のことは自然から教えてもらうという、自然とのコミュニケーションをベースにした、人が生きていくための知恵は、説明がつかないような出来事が起きた時に真の力を発揮するような気がしたりもする。

帰宅時、あのカマキリが玄関先に居ないことを願いつつ、そのようなことを思った日。

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