隙間時間を利用して小物整理を始めた。
この日のターゲットスペースは書道道具を収納している辺りだ。
筆の取捨選択を行い、墨や墨汁の状態をひと通り確認し、硯(すずり)や落款印(らっかんいん)も確認した。
落款印(らっかんいん)を確認していると、彫られる前の状態のものが2本あった。
2本とも今は亡き恩師から、大人になって作りたい落款印(らっかんいん)ができたらこれで作るといいと言っていただいたものである。
落款印(らっかんいん)とは、作品が仕上がっていることを知らせる意味や、作者を知らせたり証明するために押す印鑑のことだ。
書道作品や日本画作品などに押してある朱色をした印と言えばイメージが湧くだろうか。
あの印鑑のことである。
落款印(らっかんいん)には種類があり、押す位置によって使用する印鑑を変えなくてはいけないお約束ごとがあるのだけれど、私たちが銀行や仕事などで使用する印鑑とは異なり、自由度が非常に高い。
だから、ちょっとした名刺代わりに使用できると、落款印(らっかんいん)を作る方も多いと聞く。
落款印(らっかんいん)の中で最も自由度が高い印鑑は、遊印(ゆういん)と呼ばれている。
既に、印鑑の用途は、その名が語っている通りで、どこに押しても構わないのだ。
時折、この作家は失敗したのかしら?と思ってしまう様な変な位置に朱色の落款印が押してある作品があるけれど、あれは失敗ではなく、「作品の一部」といった意味で押してある遊印(ゆういん)なのである。
更にこの遊印(ゆういん)、落款印(らっかんいん)のひとつでありながら、名前である必要はないという自由さを持っているため、
自分好みの動物や植物、吉祥文様などに「ありがとう」や「自分の名前」を組み合わせたり、熨斗マークの遊印(ゆういん)を準備しておくなど、発想力次第で如何様にも楽しんだり、便利に使うことができる魅力を持っている。
スタンプと言ってしまえば、もっと身近な存在に感じていただけるのでしょうけれど、遊印(ゆういん)という響きが趣きを感じさせてくれるように思うのですが、いかがでしょう。
このような自由な印を目にした際には、スタンプという呼び名でなく遊印(ゆういん)という名を、ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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