脳内が静まり返り、思考が完全に停止した。
忍び寄る睡魔と、うんともすんとも言わない様子から察するに、
脳のガソリンであるブドウ糖が切れてしまい、
ウルトラマンで言う所のカラータイマー点滅中という状態に陥っているようだった。
キーボードを叩く手を止めてキッチンへ向かい、
カップボードから大きめのマグカップを取り出しながら、
ほんのりと甘いハチミツ入りのミルクティーを淹れることにした。
ミルクティーの淹れ方は、英国暮らしをしていた頃に大勢の方に仕込まれたこともあり、
体が覚えてしまっているのだけれど、いかんせん、カラータイマー点滅中につき、
迷うことなくズボラレシピで淹れることにした。
ころんとした形が愛らしい、ボールタイプのこし器に紅茶葉をたっぷりと詰めて、マグカップの底に置いた。
お湯は3、4センチほど注ぎ、渋めの紅茶を淹れる。
そこに牛乳をなみなみと注いだら電子レンジで一気に温めて
スプーン一杯ほどのハチミツを溶かし入れたら出来上がり。
英国紅茶を日本に持ち帰ってもらおうと丁寧にご指導くださった方々が見れば、
渋い顔をすること間違いなしのズボラレシピだけれども、
カラータイマー点滅中は、そのようなことには構っていられない。
マグカップと目を通していない封書やハガキを手にガーデンテーブルへ移動した。
空を眺めながら口にするミルクティーは、
ハチミツの優しい甘さを何も考えられなくなった脳内にゆっくりと染み渡らせた。
しばらく、ぼーっとしていたのだけれど半分ほど飲み終えた頃、私の手がハガキに伸びた。
友人から届いた引越しを知らせるハガキだ。
そこには、引越しハガキのほとんどに記されている、
『引越しました。お近くにお越しの際は ぜひお立ち寄り下さい。』という挨拶文が印字してあった。
ワタクシ、この文面を目にする度に思うことがある。
そうは言っても、近くまで行ったからと言って突然ピンポンチャイムを鳴らすのは、
それなりに迷惑じゃないかしら、と。
もちろん、お互いの関係性に合った、
正しい大人の判断ができるということが大前提での挨拶文だとは思うのだけれども、
自分がハガキを出す側になったときには、この定型文を手直ししてしまうことがある。
ただ単に、私がアポなし訪問されることは苦手だというだけのことなのだけれど。
だからだろう。テレビ番組などで時々目にする、突然お宅を訪問する企画で、
ご自宅を快く開放する方が登場すると、その大らかさに関心してしまうのだ。
引越しハガキを眺めながら、日本語は、良くも悪くも奥深いものだと思った。
脳に届いたエネルギーが働きだしたことを知らせるかのように巡り始めた私の思考。
その日の私は、これを合図に、PCという名の相棒のもとへ戻った。
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